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【魂の探訪記(後編) : 質的現地調査から見た精神世界の実態】
精神世界(いわゆるスピリチュアル)に関する研究は、島薗進によって提唱された「新霊性運動」を基礎に、宗教・聖地・サブカルチャーなど多岐に渡る分野で論じられ、関係者のブログやホームページ、著書、市場へのアンケートなどを中心に研究されてきた。一方、現地調査にもとづいて調査対象の実態の分析を行った研究は、筆者の知る限り多くない。本論文はこれまでなされてきた文書研究・文書分析や量的調査に、現地調査にもとづく具体的事例を加えることにより、先行研究の補完・発展を試み、精神世界と関わりの深い「宗教」、「心霊研究」、「聖地」、「サブカルチャー」の視座から検証を行って、精神世界に何が起きているのか、より正確な実態に即した理解に寄与することを目的としている。前編ではなぜ質的現地調査が必要なのか論じつつその事例を扱い、後編では引き続き事例を扱いながら現代の精神世界の実態に迫る。
以下、個別事例研究の確認です。
https://webcache.googleusercontent.com/search?q=cache:ovYJxbgGsDgJ:https://kansai-u.repo.nii.ac.jp/%3Faction%3Drepository_action_common_download%26item_id%3D18773%26item_no%3D1%26attribute_id%3D19%26file_no%3D1+&cd=2&hl=ja&ct=clnk&gl=jp&client=firefox-b-d
※後編のpdfダウンロードは以下から。
file:///C:/Users/desktop/AppData/Local/Temp/KU-1100-20210301-01.pdf
楽天ブログでは、上記urlの属性が不正としてリンク不可。
※前編のpdfのダウンロードは以下から。
https://kansai-u.repo.nii.ac.jp/?action=pages_view_main&active_action=repository_view_main_item_detail&item_id=18633&item_no=1&page_id=13&block_id=21
以下、キャッシュから転載。
——————————-
魂の探訪記(後編) : 質的現地調査から見た精神
世界の実態
その他のタイトル
Exploration of the Soul. Part 2 : Japanese
spirituality as seen from the field survey
著者
伊藤 耕一郎
雑誌名
千里山文学論集
巻
特別号
ページ
1-29
発行年
2021-03-01
URL
http://doi.org/10.32286/00022812
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魂の探訪記(後編)
――質的現地調査から見た精神世界の実態――
伊 藤 耕 一 郎
二.心霊研究と精神世界
1 筆者のこれまでの研究
戦前までの霊的な思想の中心はスピリチュアリズムを核とした心霊研究
であった1)。これに対し現代の精神世界はニューエイジ運動から影響を受
けており(樫尾 2010:73-74)、その源流は神智学にある(ストーム 1993:
23)。神智学の「霊的進化論」は、前世でのカルマを今世での訓練で浄化
し、転生を繰り返すことで霊的界層を上げ(魂のレベル上げ)、宇宙意識
(神的存在)と一体になることを目的としている(大田 2013:45-55)。こ
の神智学的思想と心霊研究は思想を異にしており2)、神智学協会設立者の
⚑人であるブラヴァツキーは「私たちは心霊主義を信じません」とした上
で心霊研究を強く批判している(ブラヴァツキー 2018:409/4400)。
しかし、精神世界の中心的活動の⚑つであるブース出展型イベント(伊
藤 2020b:12)ではニューエイジ系・スピリチュアリズム系のブースが
同時に出展されているだけではなく、⚑つの精神世界関連事業者が両者の
技法を同じブースで行っている光景も珍しくない3)。櫻井義秀は社会学の
1) 福来友吉は1928年に(財)大日本心霊研究所を設立(寺沢 2004:305)、浅野和
三郎は1922年に現在の(公財)日本心霊科学協会の前身である心霊科学研究会を設
立している(松本 1989:170)。
2) スピリチュアリズムは交(降)霊術・心霊術・心霊主義とも呼ばれ、死後の魂や
霊からの人間への働きかけに耳を傾けて生きることを重視するが(日本神霊学研究
会 2019:188-189)、神智学では魂のレベルを上げてより高次元へと上昇するため
に転生を繰り返すとしており、現世での積極的な修行を重要視する(神尾 2006)。
3) 現地調査による(2018年⚓月10日)。
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観点から「癒しの社会的機能」としてブース出展型イベントをとりあげ、
技法やその効能が求められるゆえに「手段が目的と化してしまう」と指摘
しており(櫻井 2009:166-168)、ブース出展型イベントにおいては各技
法に連なる思想は重視あまりされていないと言うことができる。
とはいえ、精神世界の根本思想が神智学的な霊的進化論、「魂のレベル
上げ」にあるという点は、精神世界関係者の共通認識である。「癒しフェア
2018 in 大阪」で筆者がとったアンケートの中の「あなたは魂のレベルを
意識したことがありますか」という設問では、「ある」と回答した人が64%
おり、精神世界に関わる人は何らかの形で魂のレベルを意識している4)。
筆者は、相反する思想が同居し得る理由の⚑つに、転生(輪廻・再生)
についての認識が関係していると考えている。精神世界で転生は、「輪廻
転生観は、現代のスピリチュアリティの文化を代表するものとは言えない
が、その死生観(死後観)として重要な位置を占めている」とされるよう
に(堀江 2019:115)、関係者にとって重要事項である。
死者との交霊を主とする心霊研究において転生は認められておらず、
「19世紀末から20世紀初頭にかけての心霊研究のテーマは、霊媒による物
理的現象の真偽をめぐる問題と、主観的現象ともいわれた『霊界通信』
(言霊、自動書記)の信憑性をめぐる問題と、この⚒つに分けられ」(津城
2005:119)、転生に対しての研究はなされていなかった。
しかしその後、「スピリチュアリズムとニューエイジをつなぐ位置にあ
る」とされるエドガー・ケイシーのリーディング5)の中で説かれる輪廻説
4) 2018年⚓月10日「スピリチュアルとニューエイジ」(癒しフェア inOSAKA 会場
にて)、有効回答数42、設問は「性別」、「年代」、「あなたはニューエイジという言
葉を知っていますか」、「あなたはニューエイジの意味について説明できますか(選
択式)」、「あなたは年間どのくらい精神世界イベントに参加しますか」、「あなたは
魂のレベルを意識したことはありますか」、「あなたは地球のアセンションは近いと
思いますか」、「あなたはこのイベントの参加者ですか、出展者ですか」の⚘項目。
設問⚖の「あなたは魂のレベルを意識したことはありますか」に対して、ある64%、
ない21%、分からない14%、の回答を得ている。
5) 施術者が相手の心身の状態や、人間関係などを読み取る技法(日本神霊学研究会
2019)。
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の登場や(津城 2005:147)、シルバー・バーチ6)の再生説など、転生を
認める心霊研究者が現れ、日本でも広まっていった(スピリチュアリズム
普及会 1996:120-132)。また、心霊研究出身の江原啓之が転生を認めて
いたことが7)、精神世界における両者の壁を取り払わせたのではないだろ
うか。この「転生」という問題があまり重要視されなくなったことにより、
他の差異は「癒しの社会的機能」の中に融合していったと筆者は推察する。
これを言い換えれば、精神世界が心霊研究を吸収したともいえる。堀江
宗正は、「現代日本の前世療法の体験談の分析」の中でこの両者を同じも
のとして扱っている(堀江 2019:130-147)。
しかし筆者が知る限り、心霊研究機関である(公財)日本心霊科学協会
は精神世界を扱っていない8)。また心霊研究では当然の存在として扱われ
ている霊能者について、精神世界側から説明されているのを見たことがな
い9)。さらに日本において普及している転生を認める心霊研究は世界では
少数派であり、本場イギリスの心霊研究でも転生は認められていない10)。
そこで、心霊研究側から精神世界はどのように映っているのかを確認する
ため、心霊研究・スピリチュアリズムの実践団体への聞き取りを行った。
2 事例
⑴ 事例⚑(日本霊能師協会)
――調査対象G(50代男性 愛知県在住)
同協会相談員
聞き取り(2019年⚖月27日)
6) イギリスの『サイキック・ニュース』誌編集者に1920年に降霊したとされる、霊
界の指導的立場にあるとされる高級霊(日本神霊学研究会 2019:166)。
7) 江原は精神世界ではなく、心霊研究出身でスピリチュアリズムの簡約版をスピリ
チュアルと定義付けていた(江原 2003:51-52)。
8) ドキュメント調査(『心霊研究』2019年10月号~2020年10月号)。
9) ドキュメント調査(スピリチュアリズム普及会 1996:198-201)など。
10) 津城寛文の発表による(「無きものとされた近代知――心霊研究の諸事実と諸説
明」2020年⚙月19日日本宗教学会第79回学術大会)。
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――団体概要
Gによると、同団体は明治時代に立ち上げられた日本霊能者協会の派生
団体にあたる。霊能者協会の⚕代目会長は警察への霊視捜査協力を行って
いたという11)。霊能者協会は、設立当初は心霊研究の実践団体で占い師や
風水師らは入会できず、入会を許される霊能者も既存の宗教的な背景や、
系譜が明らかな者だけであった。
とはいえ、占いは心霊研究の入り口にあり、「占い師を紹介して欲しい」
という相談者も多いことから、門戸を広げ1985年に占い師や風水師も入会
できる日本霊能師協会が立ち上げられた。両団体は看板だけ違って事務所
も活動内容も同じということなので、以下は同一のものとして扱っていく。
(公財)日本心霊科学協会とも交流があり、霊能者協会の現代表が講演
会を行ったこともある12)。Gは心霊科学協会を研究機関、霊能者協会・霊
能師協会を実践機関だと位置づけている。
――霊能者と占い師
Gは、「占いをしているからといって、霊能者としての能力が無くはな
い」としているが、心霊研究の中で占い師は低く見られると言う。両者の
違いは「運命を読み取るのが占い師」、「運命を変えるのが霊能者」で、占
い師には、何らかの霊的な力を感じてそれを伝えることができても現状を
変える力はないとしている。
しかし、占い師でも真摯に心霊と向き合っていくうちに、より上位霊と
繋がって霊能者に育っていく場合もあり、霊能者の前段階に占い師がある
とのことであった。以降、占い師も含めて霊能者と記すことにする。
――霊能者のあり方
Gはいくつかの点にしぼって霊能者の見分け方について説明をしてくれ
11) 武富健治 2015『狐筋の一族 秘境と因習編』Kindle(太陽図書:14/73)にて確
認。
12) 「公益財団法人日本心霊科学協会にて発表!」2016年⚖月27日(http://senntenn.
jp/blog/2016/06/27/)霊泉館(日本霊能者協会)(最終閲覧日2020年11月⚒日)。
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た。これは精神世界と心霊研究を比べる際に知っておくべき重要な点にな
ると言う。
Gは、霊能力があることと、霊能者になることは全く別物だとする。そ
れは問題解決能力の有無で、理論は学べば頭に入るが、相談者の問題を解
決できる霊能者に育つのはその中の⚑%に満たないということであった。
霊能力のある人の大半は、感じたり、見えたりするが、恐れが先行する
ので最初は相談者側にまわることが多く、相談により恐怖心が増す人が多
いのが問題だという。これは相談をされた側が、事象の「解説者」になっ
ている場合がほとんどで、それでは相談者の恐れは増大するだけと言う。
これはBが精神世界関連事業者について、「利用者側だった時間が長い」
と言っていたことにも通じる。
また、解決能力がある霊能者は水晶やお札などを最初から使うことはな
いと言う。大概の悩みや心霊相談に対して、霊能者は祈祷・祈願で解決を
し、相談内容を良く聞いてから、道具を使用する必要性があると判断した
場合にのみ使用する。Gは「最初から道具に頼る霊能者にはまず問題解決
能力がない」とし、彼らを⚒種類に分けている。一方は霊能力など全くな
いのを分かっていて、最初から騙すつもりの人でそもそも論外とした。問
題なのは、霊能力がわずかにあったり、無いにもかかわらず、道具の使い
方を熱心に学んで「自分には強い霊能力がある」と思い込んでしまう人た
ちだという。このような人たちが、単に読み取るだけの力を使って相談者
に恐怖を与えていくとGは指摘し、この視点から精神世界について話をし
てくれた。
――精神世界について
Gは精神世界と心霊研究は全く立場が違うとする。Gは、過去に女性誌
に掲載されていた数え切れないほどの占い師が、いつの間にかオラクル
カードリーダーやタロットリーダーと名前を変えたり、霊視や霊言の取り
次ぎをしていた人たちがチャネラーや○○マスターという名前で活動して
いると指摘する。
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Gは、霊能者には⚑%しかなれないのに、どうして精神世界のイベント
にはそれだけの出展者がいるのだろうかとした上で、精神世界では「一定
の能力を短時間で開花できたように本人に錯覚させるから質が悪い」とす
る。密教系・神道系・陰陽・修験などの訓練は、霊能力がある人でも時間
がかかり、忍耐を必要とすると言う。占いであっても、ものにするには何
年もかかる。しかし、精神世界では小手先のテクニックで入り口的なこと
ができる人を養成し、多くの人たちが自分が霊と繋がっていると思い込ん
で勝手に開業していると苦言を呈していた。
Gは、「中には本当に高級霊と交信できる人もいるし、上位霊と交信し
て自動筆記ができる技法者も知っている」と、精神世界の中の技法者を全
て否定してはいない。しかし、多くのタロットリーダーやオラクルカード
リーダーが道具に頼っていることを例にあげ、精神世界を「宝石とガラク
タが混じって放置されている箱と同じだ」とし、純粋な霊能者を育てる心
霊研究と精神世界は一線を画すべきだとしていた。
――前世・転生について
前世については、「無いとする場合が多いが、交信した霊にあると示さ
れた人もいるので絶対無いとは言い切れない」と前置きをし、協会所属の
霊能者へは「前世や転生という言葉は使わないように」指導しているとい
うことであった。
理由を尋ねたところ、前世や転生は便利な言葉で、「前世が悪かったか
ら」、「転生した際に良い道がある」と実際の解決できないことを何でも前
世や転生を言い訳に逃げ道を作れるので、霊能者はまず現世での問題解決
に力を注ぐべきだとしている。
⑵ 事例⚒(日本霊能者連盟)
――調査対象H(60代男性 大阪府在住)
同連盟代表、日本コンピューター連盟代表
聞き取り(2019年⚗月⚙日)
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――団体概要
代表者のHは大学を出た後に大手電化製品会社に就職、その後に有志と
ともにパソコンを扱う事業を始めた。見えたり感じる力はあるが、それが
使えるほどのものでないことを自覚していたHは、ネット占いやネットを
使った心霊相談などのポータルサイトを作っていた。1995年に旅行先の旅
館で、保養に来ていた、災害予知や池田小学校事件の予知で知名度をあげ
た霊能者13)から突然、「君と僕で霊能者の未来を開こう」と言われた。こ
の霊能者から、「自分は色々な未来が見えることがあるが、それを世間に
公表できる場所がなかった。川を見ていたら同じ旅館に情報を広げられる
男性がいると示されたので探していた」と説明され、⚒人で立ち上げたの
が同団体である。
同団体に加盟するには、立ち上げを一緒に行った霊能者による面接があ
り、加盟を許可されるのは80人に⚑人だという。これはGの言う⚑%より
も多いが、狭き門であることには代わりはない。加盟している霊能者のリ
ストを見せてもらったが、テレビ出演や YouTube で有名な霊能者も登録
をしていた。
――霊能者のあり方
Hは、霊能力の強い霊能者と長い間一緒にいると、個人差はあるものの、
その霊能者の霊力が流れてくることがあり、受け取る側によっては「自分
が霊能者になった」と錯覚する場合があるという。そういう人の多くは何
の訓練もせずに開業をするが、霊を祓う行為⚑つをとっても、「埃をハタ
キやエアブラシで落としているのと同じで悪いものをまき散らして危険極
まりない」と言う。また、自分が憑かれてしまうだけならばともかく、相
談者に被害を与えることもあり、「霊能力があることと、霊能者を仕事と
することは別だと知る必要がある」とした。H自身も電話などで相談者の
状況が分かっても自身は霊能者ではないので、絶対に自分で鑑定しないと
13) Google 検索「(霊能者名)池田小学校事件」38100件「(霊能者名)震災予知」
14300件、霊能者名で検索451000件(2020年11月⚒日検索)。
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いう。
またHは、金銭に執着する霊能者は徐々に交信できる霊の格が落ちてく
るという。「金銭に執着するとどうしても相談者を怖がらせてお金を出さ
せるようになってしまう」というのが一番の理由で、「相談者に恐怖を与
えるか否か」を重視する点はGと同じであった。
――精神世界について
Hは「自分はお祭り好きだから嫌いじゃない」としながら、加盟霊能者
はブース出展型イベントについて否定的であると言う。加盟霊能者たちが
精神世界イベントに視察に行ったことがあり、その際に数人の霊能者が吐
き気を催したという。
「エネルギー酔いとかいうが、あれは低級霊が飛び交っているからで、
霊能者としてやっていける人がいても低級霊との交霊が多くなり能力が低
下する」とし、「ああいう所に出展せずに地道にやってる人の中には、本
物の霊能者と同レベルの人もいるが」と完全否定はしないものの、やはり
精神世界は玉石混合であるという見解を示していた。
――前世・転生について
Hは一応、前世も転生も認めているが、精神世界のそれとは違うとする。
「本当に転生してしまったら先祖が帰ってくるのとは矛盾する」という。
Hは一部のスピリチュアリズムで用いられる「類魂」(スピリチュアリズ
ム普及会 1996:120-132)の概念を使って説明をしてくれたが14)、「自分
の前世がどうとか、魂がどうとか言う前に、高級霊の前に恥ずかしくない
生き方ができているかどうかの方が大切だ」としていた。
3 小括
事例⚑、事例⚒から、心霊研究側は精神世界を別もの、自分達よりもレ
ベルの低いものとして扱っているように思われる。ここから、心霊研究側
と精神世界側では互いの認識は全く違うように見えるがそうとも言えない。
14) 同じような自我を持つ霊魂の集団のこと(神霊学研究会 2019:325)
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調査に先んじて WEB 上で精神世界関係者に対して行ったアンケート
調査で15)、「スピリチュアル・心霊主義・心霊研究は同じだと思います
か」という問いに対して、違うような気がする・違うとした人が全体の
60%を占めており、両者の違いを説明できる・なんとなくなら説明できる
とした人は40%にのぼった。これらの聞き取り結果とアンケート調査結果
は、筆者がそれまでブース出展型イベントで行ってきた調査や、先行研究
での両者の扱いとは明らかに違う結果である。
この結果について精神世界関係イベントを主催しているIは16)、「メー
ルやメッセージによるアンケートでは、調べてから回答するのでさすがに
⚖割もの人が違いを認識しているとは思えない」と前置きし、「最近の出
展者はどの技法がどの思想に結びついているか最初は知らなくても、あま
りにも技法の情報が多いので、自己整理しようとする人を見かける」と話
していた。また精神世界関連事業のコンサルタントをしているBは17)、
「調べてから回答した人が多いのでは」とIと同様の見解を示しつつ、「自
分が扱った範囲では、『違うかな』くらいまでは分かっている人が多いよ
うに思える。ベテランになると技法や思想も無意識的に自己統合できてい
くのではないか」としていた。
ここから、精神世界関係者の一部には精神世界と心霊研究は本来別物で
あることを理解し、これらを何らかの形で整理・統合しようとする動きが
読み取れる。前編の事例で扱ったCが多くの技法を取得したことで悩み、
密教によってそれらを体系化していったことも、その一例であろう。
これまでの研究から精神世界にはスピリチュアリズムをはじめ、様々な
異なった思想に基づく技法が混在しているのは確かである。しかし、それ
15) 2019年⚓月⚑日⚑-⚓月⚔日「スピリチュアル意識調査」(WEB にて精神世界関
係者に直接 DM 及びメッセージ送信)、有効回答数157、設問内容は「スピリチュ
アル・心霊主義・心霊研究は同じだと思いますか」、「スピリチュアルと心霊主義の
違いを説明できますか」、「ワンネスとサムシンググレートは同じと思いますか」の
⚓問。
16) I(40代女性 滋賀県)への聞き取りにもとづく(2019年⚗月12日)。
17) B(50代女性 兵庫県)への聞き取りにもとづく(2020年⚙月21日)。
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らの技法は単に吸収されたのではなく、精神世界の文脈で再構成・再構築
されつつあるのではないだろうか。
三.聖地と精神世界
1 概要
聖地研究に関しては、現地調査に基づく研究が数多く行われている。し
かし、近年の研究において精神世界と関連して論じられているものは堀江
(2019)を除いてほとんどなく、その中でも、「パワースポットで体験され
る具体的効果、およびご利益を通じて神社信仰とスピリチュアリティとの
接近」などが論じられているが(大道 2020:69)、一部の聞き取り記事を
除き、文献やブログを含むドキュメント調査・ドキュメント分析が研究の
中心となっている。
2 筆者のこれまでの研究
聖地は、「ある区切られた場所や時間が神聖なものとして意識され、他
の場所や時間から切り離されて、聖と俗の分離が生ずる」場所、「人間に
神聖な力と接触する機会を提供し、新たな生の活力を与える」特定の場所
とされる(市川 2010:410)。
精神世界では聖地をパワースポットと呼ぶことが多い。パワースポット
は清田益章18)によって「精神エネルギーを満タンにして肉体と精神のバラン
スを矯正する」場所、「運やチャンスを呼び込んでくれるスポット」(清田
1991:59・63)と説明されており、これ以前にもパワースポットという語に
ついての説明はあったが19)、精神世界におけるパワースポットについて小寺
敦之は、「清田の著述の意味に近いと思われる」としている(小寺 2011:
87-88)。小寺によれば当時の女子大生が考えるパワースポットには、日比谷
公園や東京タワー・水族館・図書館などの空間、さらには屋根裏部屋といっ
18) 清田益章は超能力者として少年時代からテレビに出演し、注目を集めていた(堀
江 2019:173)。
19) 1986『現代用語の基礎知識』(自由国民社)。
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た身近な空間も含まれていた(小寺 2011:95-96)。この他にも特定のガ
ソリンスタンドや焼き肉屋なども同様に扱われることがある(寺石
2008:31-33)。
筆者がこれまで調査してきた場所は、神社などの宗教施設だけではない
が、屋根裏部屋など公開性のない場所は除外してきた。また、聖地と呼ば
れる場所であっても、(狭義の)精神世界関係者がパワースポットとして
扱っていない場所は研究対象としていない20)。
現代のパワースポットが神社に集中している理由や、そこで得られる効
果や現象については堀江が詳しく解説しているのでここでは割愛するが、
「地域の集団に属さなくても、また宗教的儀礼に参加しなくても場所のパ
ワーだけを切り取って個人的に享受」していること、「少数者が実践して
きた、呪力や霊験などの『パワー』を獲得する行為が、観光化によって普
通の一般人に開かれた」こと(堀江 2019:177-221)の⚒点について、
「パワーの脱文脈化と一般化」として、先行する宗教的巡礼とは異なる視
点で述べていることは興味深い。特に⚑つめにあげられている、場所のパ
ワーを切り取る行為については、実際に筆者が⚒つの神社で行ったアン
ケート調査からも確認することができる。
京都の晴明神社で行ったアンケートでは21)、本殿を参拝せず厄除け桃や
御神木へ直接行った人が半数弱で、神社の訪問目的に参拝をあげた人は僅
かであった。また恋愛のパワースポットと言われる氷室神社(通称「恋愛
べんてん」)で行ったアンケートでも22)、参拝を目的とした人はほとんど
居なかった。
20) ツーリズムの文脈で語られることが多い場所であっても、精神世界関係者が集
まっている場合は現地調査の対象としている。
21) 2017年⚓月20日10:00-15:00「晴明神社訪問者へのアンケート」(京都市 晴明
神社)、有効回答数32、設問内容は「ここに祀られている神を知っていますか」、
「ここがパワースポットだと言われていることを知っていますか」、「ここを訪れた
目的は何ですか」、「どこから境内を回りましたか」の⚔問。
22) 2017年⚘月16日12:30-15:30「恋愛弁天訪問者へのアンケート」(神戸市 氷室
神社)、有効回答数16、設問内容は「ここを訪れた目的は何ですか」、「この場所を
どうやって知りましたか」、「あなたは本殿を参拝しましたか(OA)」の⚓問。
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近年の聖地研究の多くは神社に集中しているが23)、清田が「パワース
ポット観光マップ」で示したパワースポットのうち宗教と関連した場所は
27カ所のうち全体の⚒割にも満たず(清田 1991:90-208)、実際に筆者が
聞き取りを行った調査対象にも宗教施設以外を聖地として訪れている人が
存在する。あらためて「聖地と(狭義の)精神世界関係者」について現地
調査から分析を行った。
⑴ 事例⚑(神社-三重県鈴鹿市)
――調査対象J(40代女性 三重県在住)他⚕名
精神世界関連事業者、イベントプロデューサー
観察・聞き取り(2017年⚓月30日)
――企画概要
Jが企画した「べっぴん life プロデュース」は、女性の中にある「美し
くなりたい」という願いに対して「念じていれば引き寄せられる」といっ
た、ぼんやりしたアドバイスではなく、何をしたら良いのかを的確に指導
し、精神世界の技法を用いながら現実化していくことを目標にした企画で
ある。「内面だけでなく外見も十分に整う」ことによって、意識だけでは
わからなかった成長を感じ取り、本当にしたいことを「引き寄せる」こと
ができる女性に成長することを目指した企画で、Jを含めて⚖人の精神世
界の違った技法を持つ女性が企画スタッフとして集まった。
――初回会議
この企画の初回会議に参加したところ、企画趣旨、具体的活動、カリ
キュラム、最終目標などが話し合われていた。現実的な経費や会場の話の
他にも、それぞれの持っている技法についての説明やそれをどう活かすか
などについても話し合われていた。内容については今回の論文趣旨から外
れるので割愛するが、「精神世界関係者が企画する事業」としては興味深
23) 堀江は神社にパワースポットが集中する理由として、江原啓之が日本の様々な神
社を聖地として紹介したことを原因の⚑つとしてあげている(堀江 2019:178)。
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いものがあった。
――椿大神社へ
会議自体は約⚕時間強を費やして行われ、会議後に全員で三重県鈴鹿市
にある椿大神社へと向かった。
椿大神社は猿田彦大神を主神としており、Jは「ここの神様は導きの祖
神と呼ばれているので、良いスタートが切れるように参拝に来た」、「企画
の活動中心地である場所の神様に挨拶をするのは当然のこと」と説明して
くれた。
⚖人は本殿へ向かい二拝二拍手一拝で参拝を済ませた後に、境内にある
「かなえ滝」という滝の前で記念写真を撮っていた。かなえ滝については
スマホの待ち受け画面にすると幸運を呼ぶというパワースポット的な要素
があるものの24)、あくまでも主神への参拝が最重要ということであった。
⑵ 事例⚒(自然-京丹波市)
――調査対象K(50代女性 京都府)
精神世界関連事業者、化粧品販売会社社長
聞き取り(2016年11月⚘日)
――背景
Kは化粧品販売会社の社長をしており、顧客をリーディングして顧客に
あった化粧品を販売するということで、地道に営業成績を伸ばしている。
Kは化粧品の販売店に勤務していたが、10年前に突然アトピーを発症し、
どこの皮膚科へいっても改善する兆しがなかった。民間療法も行い、ステ
ロイド外用剤を中止し、自宅温泉療法を行ったがステロイドのリバウンド
で症状が悪化。全身引っかき傷と体液で下着が身体にへばりつき、あちこ
ちから出血し、まさに「血だるま状態」だったという。
入浴すると湯船は体液でドロドロになり傷口に湯がしみて「入浴は苦
24) 堀江はブログの調査から、「待ち受けにすると恋愛運がアップ」するとしている
(堀江 2019:230)。
魂の探訪記(後編)
― 13 ―
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行」だった。仕事も辞め、⚒年間で温泉療法に100万円以上使ってもまっ
たく改善する兆しはなく、自分の姿を鏡で見ては落ち込み、家に引き籠も
るようになった。
――聖地にて
自分の見た目と服がこすれる痛みなどを考えると、外へ出る気は起きな
かった。そんな折、遠縁の精神世界関連事業者の女性(30代)が、「京都
に身体を清めてくれる水が湧いているので行かないか」と誘ってくれたと
いう。「自分は汚れている」と思っていたKは治ることよりも「少しでも
清められるのならば」と考え、そこへ行くことにした。Kは「知られざる
神社」のようなものを想像していたが、そこは小さな湧き水が流れる山の
中だった。
靴下をぬいで足をつけるように促され、その通りにしたところ、足から
全身に水とは違うぬるっとしたものが通り抜け、自分の中にある汚れを拭
い取ってくれる感覚があった。KがTシャツ⚑枚になり背中を水で濡らし
てみると、ゼリー状のようなものが自分全体を覆い、痛みが引き、自分か
ら皮膚がボロボロとはがれ落ち、それが清められてすっと自分の中にも
どっていくような感覚を覚えた。
完全にアトピーが治ったわけではなかったが、明らかに改善の兆しは見
え、Kは「もう汚れてはいない」という気持ちになった。Kは「山の高エ
ネルギー体が私の心身の状態を読み取っていった」と体験を話してくれた。
――リーディング~化粧品チャネラー
アトピーが改善するに伴い、Kは少し化粧をしてみようと考え、化粧品
をいろいろと取り寄せてみた。しかし肌に優しいものを探して成分を調べ
ると、自分に合いそうなものは無かった。Kはさらに多くの化粧品を取り
寄せ調べ続けた。化粧品とだけ向き合っていると、化粧品が自分に対して
「親しみをもっている」か「親しみをもっていないか」、「嫌っているか」
が分かるようになったという。
山へ連れて行ってくれた女性にその話をしたところ、女性はヒーリング
魂の探訪記(後編)
― 14 ―
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マシンを製造している事業所の代表(50代男性)を連れてきてKに紹介し
た。男性はKを「化粧品をリーディングして対話ができるのは珍しい。化
粧品チャネラーだね」といい、Kのところに男性が仕入れた化粧品や整髪
剤を持ってきてはKとリーディング実験を行った。
Kの能力を評価した男性は、「相手をリーディングして化粧品を選ぶの
はビジネスになる」と、Kに出資を申し入れた。
自分に合った化粧品を探し当てた結果、アトピーは完治した。Kは「市
販品であっても相性が大切で高級品でなくても良い」とし、現在は様々な
人をリーディングし、化粧品と対話をした後にその人に合った化粧品を販
売している。
⑶ 事例⚓(神社、自然-兵庫県神戸市)
――調査対象L(30代男性 愛知県在住)他⚔名
会社員
観察・聞き取り(2017年⚓月20日、2017年⚖月10日)
――使命
Lは生まれたときから霊感が強く、見える訳ではなかったが自分を呼ぶ
声が聞こえており、それを友達に話してしまったために小学生の頃はいじ
められたと言う。しかし、家族全員に霊感があり、家族はいつもLの味方
だった。中学に入るといじめ自体がなくなり、高校に入るころには霊感も
なくなって声のことも忘れた。Lは高校を卒業して工場に就職、結婚して
子供も生まれ、「ごく普通の家庭」を築いていた。
Lに転機が訪れたのは29歳の時で、工場で機械に挟まれるという大事故
に遭い、⚑年間まったく働けなくなった。ベッドの上にいるLに妻は離婚
状を持ってきたが、気力が抜けていたLはそれに応じるしかなかった。身
体は回復してきたが、さらに職場から戦力外通知が出され、退職せざるを
得ない状況となった。そのような状態の中で長く止まっていた声が再び聞
こえるようになったという。
魂の探訪記(後編)
― 15 ―
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声はLに⚑人の精神世界関係者(40代男性)を訪ねるようにと指示をし
た。Lが訪ねたところ、相手はLが来ることを知っており、Lにこれまで
あったことの確認をした。全てが当たっていることに驚いたLに男性は
「ブロック解除を受けて使命を得るように」と言った25)。
ブロック解除を受けたLは、「地球の次元上昇に備え、聖地の地下に縛
られている龍のエネルギーを解放して地脈を繋げる」という使命を受け
取ったという。大手自動車会社の系列の工場に就職も決まり、資金が貯ま
ると、エネルギーの解放のために神社をはじめとした「示された聖地へ赴
いている」と言う。聞き取りを行った日も京都の晴明神社、貴船神社へ
「解放」に行った帰りということであった。
――UFO との交信
Lにとっての使命は聖地のエネルギー解放だが、そのための力を高める
ことや具体的に次に何をするかを知るためには、宇宙や違う次元との交信
は欠かすことができないものだという。
最初の聞き取りから⚓ヶ月後、「六甲山頂で UFO や異次元と交信会を
するので参加しないか」という誘いがあった。交信会は早朝からLの他に
リーダー(40代男性)と30代女性、40代男性⚒人の合計⚕人で行われた。
⚕人は六甲山頂付近の開けた地に集まり、手をつないで UFO を呼び始
めた。Lは「最近宇宙語が話せるようになったが、まだ⚑人ではうまく話
せない」と言っており、「周りと波動を合わせる」ことから始めていた。
しばらくすると⚒人が宇宙語で話し始め、これに呼応して他の⚒人も宇
宙語を話し出した。Lも最終的には宇宙語で UFO と交信をすることがで
きたと言う。これについてLは、「複数人がいた場合、誰かが宇宙語で交
信を始めれば、その交信によって UFO より得たエネルギーが手を繋いで
いる仲間にも流れ込み、それぞれが交信できるようになっていくので、複
数が一緒にいることが重要」と説明してくれた。
筆者に UFO は見えなかったが、Lは「確かに UFO は来ており(宇宙
25) 本当の自分をブロックするもの(牧野内 2017:292-371/674)を取り除く技法。
魂の探訪記(後編)
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語で)話せば話すほどその交信が深まり、次に自分の行く道が示された」
としている。また「UFO に乗っているのはプレアデス系かシリウス系の
宇宙人」ということであった。
午後からは UFO 基地を捜索した。捜索は登山客から情報を得、そこで
波動測定機を使って確認を繰り返した。数時間で⚓箇所それらしき場所が
あったものの、中に入ることはできなかったので、次回はその地点を重点
的に捜索するということになった。
――異次元生命体との交信
夜になると異次元生命体との交信を行うことになった。基本的に交信方
法は午前中と同じだが、午前中のワークによって、受け手側が「より自然
の波動を感じやすくなっており交信しやすい状態にある」ということで
あった。
この日Lが交信した異次元生命体は川の水の中にある「何か」だという
ことで、Lは「自分のレベルがまだ低いので、相手の言葉のリズムは分
かっても、何を伝えているのかまでは理解することはできなかった」と言
う。Lによると UFO や異次元生命体との交信は、自らのエネルギーを引
き上げ、魂のレベルを地球の次元上昇に合わせていくためには必須という
ことだった。
3 小括
晴明神社や氷室神社でのアンケート調査、そして事例⚓からは、これま
での研究で指摘されてきた「パワーの脱文脈化」が起きていることが読み
取れる。
また事例⚒と事例⚓からは、聖地で精神世界に目覚める人と、精神世界
の思想を持っているから聖地に行く人の両者がいることが分かる。Kはそ
れまで精神世界に触れたことがなく、聖地で超越的なものに触れて精神世
界の技法や思想を知った。これは宗教施設の中で神秘体験をするのに似て
いる。逆に使命感をもって聖地を訪ね歩いているLの姿は宗教の巡礼者と
魂の探訪記(後編)
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重なってみえる。確かに神社という場所と精神世界関係者の間において脱
文脈化は起きている。しかし逆に事例⚑に見られるように、精神世界関係
者の全てが伝統宗教の文脈を無視しているわけではない。
精神世界関係者が中心となって運営している NPO 法人心躰研究会
SEW が、地域の聖地とされる場所で開催したイベントの中で取ったアン
ケート調査「スピリチュアル・精神世界の可能性のある分野は?」という
アンケートにおいて「信仰心や神性の回復」と回答した人が43%おり26)、
ここに来た精神世界関係者の半数近くはなんらかの形で宗教への回帰を求
めているといえる。
「聖地と精神世界」の関係は、もともとあった信仰形態とは違ってはい
るが、そこでは宗教と精神世界との境界線が曖昧になってきているように
思われる。ここから、精神世界の中で聖地についても「新しい文脈での再
構築」が始まっていると考えられる。
三.サブカルチャーと精神世界
1 概要
サブカルチャーと精神世界研究には用語や概念での共通点が多い27)。し
かし、サブカルチャーが精神世界関係者に影響を与えるかどうかという点
については、単に同じ用語や概念がサブカルチャーで利用されているだけ
なのか、何らかの形で重なる部分でサブカルチャーが精神世界に影響を与
えており、その入り口になっているのかについては、明らかにはなってい
ない。
26) 「『私』が『わたし』であるために~スピリチュアル&セラピーマルシェ」2019年
⚗月14日」アンケート「『スピリチュアル』・『精神世界』の可能性について、希望
があると思われる分野は?」有効回答数33(https://www.facebook.com/npo.sew/
photos/pcb. 566170357245601/1297221227120021/)NPO 法人心躰研究会 SEW
Facebook(最終閲覧日2020年10月28日)。
27) 用語事典やライトノベル・コミックやアニメ関係からの文書調査による。
魂の探訪記(後編)
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Page 20
2 筆者のこれまでの研究
サブカルチャーと精神世界の共通点を論じる上で重要なのが転生観であ
る。精神世界において重要な位置を占めている転生観がサブカルチャーと
精神世界では非常に似通っている。小笠原英晃は前世・転生をテーマにし
た少女マンガ『ぼくの地球を守って』(日渡早紀 1986年-1994年 白泉社)
が1986年以降に当時の若い女性の前世観に影響を与えたとしており、これ
を「日本のスピリチュアルムーブメント」の流れの⚑つに入れている(小
笠原 2019:256-257)。本作では異星からの転生者が主人公となっている
が、精神世界でも異星からの転生という概念は存在している。彼等は「ス
ターシード」と呼ばれ28)、日本では2000年頃から話題にされるようになっ
た29)。その概念自体は古く1856年にはカーディックが高級霊との対話の中
で異星からの転生について問答を行っている(カーデック 2006:80-87)。
これと良く似た概念として異世界転生や、並行世界という概念も精神世
界・サブカルチャーの共通の中心的な世界観となっている(中矢 2014:
129-137)。
また、用語や使い方に関する共通点も顕著で、以前筆者が行った調査で
は、「SF・超常現象・ファンタジー・精神世界」の全479用語中78.9%が
これに該当した(伊藤 2020a:66-67)。
しかし、サブカルチャーが精神世界への入り口になっているかは明確に
されていない。堀江は精神世界に関わった⚔人の若者から聞き取りを行い、
「ファンタジーの影響力は相当に強い」としながらも、「彼らは宇宙人や魔
法など存在しないという見解を十分に承知した上で、それをʠ信じてい
るʡ」としている(堀江 2011:162)。また、堀江はファンタジーの中で中
心的に扱われる魔法について、「サブカルチャーにおける『魔術』への関
心の高まり」について、SNS を通して「『スピリチュアル』に関心のある
28) (コーリ 2011)、(サイモンズ 2011)など。スターシードはインディゴチルドレ
ン、クリスタルチルドレンなどに分けられる(サイモンズ 2011:92-101)。
29) Google Chrome ツール期間指定検索、検索キーワード「スターシード」(2020年
10月29日検索)。
魂の探訪記(後編)
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ユーザーと継続的に交流しながら」観察を行い、彼らについて「実践魔術
への関心がまったくないわけではない。たとえばスピリチュアルの延長上
で占いに関心を持ち、その中で占星術やタロットに関心を持つと西洋近代
魔法につながる」としている。
しかし、彼らにとって「魔術的なものへの関わりは、あくまでも『リア
ル』な世界に持ち出してはいけない(このタブーを冒すと『中二病』と嘲
笑される)」ため表向きには虚構・趣味だと装っており、彼らにとってサ
ブカルチャーは本当に虚構なのか、リアルなものであるのかについては
「理論的に突き詰めると決してシンプルには答えられない問いである」と
結論づけている(堀江 2019:233・269-271)。
一方、大田俊寛は『幻魔大戦』と新新宗教 GLA の関係に言及し30)、
「日本とスピリチュアル」の関係について、複数のアニメ作品に含まれる
神智学的な霊的進化論がサブカルチャーの領域で当たり前のように浸透し、
人を魅了してきたと指摘している31)。精神世界側でも両者の関係について、
「精神世界とか宗教を、どんどんアニメ、漫画に取り込んだ結果、世界の
神学構造は、身近なところに投影されていく」(松村 2012:33)と両者を
関連付ける者もいる32)。筆者が行ったアンケート調査では「あなたがスピ
リチュアルに興味を持ったとき、アニメやマンガ、ゲーム、ライトノベル
などが好きでしたか?」という問いに対して「はい」44%、「いいえ」
28%、「分からない」28%という結果を得ている33)。
30) 平井和正によって1979年から『野性時代』誌に連載されたる長編 SF 小説。1983
年アニメ化。同作は GLA の教主、高橋圭子をモデルにしたと言われている(井上
1985:12)。
31) 大田俊寛2013年⚘月23日「なぜ人間はオカルトにハマってしまうのか?」(https:
//toyokeizai.net/articles/-/18156?page=2)東洋経済 ONLINE(最終閲覧日2020年
10月30日)。
32) 同著の中で松村潔は「この世界の神学構造」という言葉を精神世界全体を指す言
葉として扱っている(松村 2012)。
33) 2019年12月15日「SF. ファンタジーに関する関心度調査」(癒しスタジアム
inOSAKA 会場にて)、有効回答数64、設問は「性別」、「年代」、「あなたはアニメ
やマンガ、ゲーム、ライトノベルなどのどれに興味がありますか?」、「あなたは →
魂の探訪記(後編)
― 20 ―
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しかし、神智学やスピリチュアリズムが GLA に影響を与え、精神世界
もこの両者を包含していることだけでは、サブカルチャーが精神世界の入
り口になっている理由とはならない。松村の説が精神世界を代表するとも
いえず、精神世界に興味をもった時にサブカルチャーに興味を持っていた
ことが、サブカルチャーが精神世界に入る原因になったとするには論拠に
乏しい。
一方、堀江が行った対象からはそのサンプルに限って言えば実態に即し
た状況が見える。その調査対象である若者は、精神世界については「秘密
主義」であり(堀江 2011:163)、また継続して関わってきた SNS ユー
ザーは精神世界に「関心のあるユーザー」(同 2019:242)であった。筆
者はこれとは逆に調査対象を「スピリチュアリティ文化の担い手」である
中高年(同 2011:159)や、現在も精神世界関係者であることを「隠して
いない若者」にすることで、状況の補完と分析ができると考えた。
⑴ 事例⚑(アニメ「涼宮ハルヒの憂鬱」を通して統合思念体・並行世界と接触)
――調査対象M(20代男性 兵庫県在住)
学生
聞き取り(2017年⚑月14日)
――Mの背景
Mは2006年にアニメ「涼宮ハルヒの憂鬱」を見たことから生活の変化が
始まったと言う。何らかの声を受け取るようになったMは、その声に従っ
て同作品の聖地とされる場所に近い兵庫県西宮市の大学に入学した。Mの
友人は「彼はアニメの聖地に憧れてこの大学に入学した」と言うが、本人
はそう思っておらず「そうなるように決まっていたからそうなった」とす
→
どの媒体が好きですか」、「あなたはどのジャンルが好きですか」、「あなたはどの国
のアニメやマンガ、ゲームなどが、好きですか?」、「あなたがアニメやマンガ、
ゲーム、ライトノベルなどを好きになったのはどの年代ですか?」、「あなたがスピ
リチュアルに興味を持ったとき、アニメやマンガ、ゲーム、ライトノベルなどが好
きでしたか?」の⚘項目。
魂の探訪記(後編)
― 21 ―
Page 23
る。Mは、それは統合思念体の意識操作によって決定されていたとしてお
り、自分の生き方はその意識によって既に決まっているとした。
――アニメ聖地と並行世界
Mは西宮市が同作品の「聖地」になっていることを当然知っているが、
Mはそうなった理由を、統合思念体の意識によって並行世界が作られた結
果だとしている。「原作者がいるのはどう説明するのか」という筆者の質
問に対して、「原作者は並行世界の存在を分からせるために、無意識に統
合思念体に作品を書かされたのだ」としていた34)。Mは、自分は本来は並
行世界側に生まれるはずだったが、「意識」が働いたことによってこちら
側の世界に生まれてきたのだと言う。それは何らかの使命であるとMはす
るが、その使命が何なのかはまだ示されておらず、作品に出てくる場所を
訪ね歩き、そこで意識との繋がりを強くすることが必要だとする。
また、Mはそのために大学⚑年生を⚒回やっていると言ったが、実際に
Mは留年しておらず、それについて訪ねると、「タイムリープ現象が起き
て自分はもう一度⚑年をやり直している」ということだった。「使命が全
て開かれるまでそれは何度も繰り返すだろう」とMは当たり前のように
語っていた。
――宗教観
著者にとって意外だったのは、Mが「神の存在は認めるし宗教は必要。
むしろ神はいないという方がおかしい」と言ったことだった。理由を聞い
たところ、「神がいなければ統合思念体の存在も、そこから指示を受ける
自分も存在しない」とのことで、「自分よりも偉大なものの存在を否定す
るより、肯定して生きる方が人は謙虚になれる」としていた。
⑵ 事例⚒(アニメ「涼宮ハルヒの憂鬱」のゆかりの地を訪ねて)
――調査対象N(40代女性 兵庫県在住 精神世界関連事業者 健康アド
34) 実際、原作者は単に自分が住んでいたところが使いやすいので舞台にしたにすぎ
ない(原作者友人P50代男性からの聞き取りにもとづく2020年11月⚓日)。
魂の探訪記(後編)
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バイザー)、O(50代男性 兵庫県在住 自営業)、P(50代男性 兵
庫県在住 会社員)他⚖名
観察・聞き取り(2020年11月⚓日)
――企画背景
Nは栄養指導のための潜在意識の書き換えに、勾玉セラピーという技法
を用いている。Nは特にサブカルチャーに興味があった訳ではないが、い
つも掃除をしている神社で勾玉の形をした石を拾い、掲示板を見ると神社
内の掲示板に「涼宮ハルヒのスタンプラリー」のパンフレットを見つけ
た。ラリーは終了していたが、気になって作品を観たところ、自身の技
法に使用している統合思念や勾玉セラピーで使用している図象、描かれ
ている世界観と自身の世界観があまりにも似ており、「もしかしたら作中
の舞台は何かと繋がっているのではないか」と考えてイベントを企画し
た。
当日は、精神世界関係者だけでなく原作者の友人であるOや、アニメー
ション制作会社勤務のPなど、筆者も含めて⚙名が参加した。Oによれば
原作者本人もこれに興味をもっていたが、新刊の「執筆が遅れているため
に今回は見送りにする」ということであった。
――企画趣旨
企画自体はいわゆる「聖地巡礼」なのだが、一般的なアニメの聖地巡礼
がアニメの背景を探して写真を撮るという「アニメファンが勝手に行って
満足して戻ってくる」(鈴木 五十嵐 岡本 2016)ものなのに対して、この
企画の訪問先は、先に述べたパワースポット的な場所として、精神世界関
係者が中心となって決められたものである。
原作者の友人からみても、同作品の聖地は他のアニメの聖地と違う点が
いくつかあるという。Oの話では、アニメ化にあたっては制作会社側の作
画監督らが映像化する場所を決めており、原作者には「西宮を聖地にす
る意図は全くなかった」そうである。また、Oは「行政は当初全くブー
ムを利用する気が無くむしろ迷惑がっていた」という。実際に西宮市で
魂の探訪記(後編)
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は、作品中で重要とされている場所が次々と移転、閉店、取り壊されてお
り35)、行政が同作品に関する企画を行ったのは2012年の夏頃ということで、
作品終了後から⚖年が経過している。
また当時の制作会社の動向を知るPによれば、原作が持ち込まれてから
の対応は通常作品よりも熱が入っており、作画監督が何度も現地取材を
行って映像化する場所を決め、同じ場所を何度も歩き、作中に出てくる
マーク(Nが勾玉と関連づけたもの)のデザインも何度もやり直させたこ
となど、「再現性よりも感受性重視で作業が進められていたように思う」
ということだった。制作会社や作画監督がどのような意図でそうしたのか
については、同監督らが亡くなっているため、聞き取りの申し入れをする
ことはできなかった36)。
――イベント当日
Nはこの企画前に下見でいくつかの場所を訪れているが、「アニメ化さ
れたから聖地ではなくて、何かのパワーがあるから聖地として選ばれたの
ではないか」という。この企画には精神世界と関係のない⚒人(O・P)
とは逆に、同作を知らない精神世界関係者(Mの友人50代女性⚒人)らも
含まれていた。
最初に症状が出たのはこの女性らで、舞台となった高校の給食室前の通
りを歩いているときに「何かマイナスのエネルギーを感じる」と言い、
「ちょっと気分が悪い」ということだった。NとPが作品との関連を調べ
ると、作中ではこの場所で主人公が襲撃されており37)、偶然の一致に⚒人
とも驚いていたが、Nらは「もともと負の力が働いていたからここが舞台
に設定されたのだろう」としていた。
また、正門前で撮影した写真を昼休みに確認したところ、筆者やP・O
が撮影した写真は普通に正門が写っていたが、先の「感じた人たち」が
35) 例外として、作品の中心であった時計台は2009年に取り壊されたが、ファンの声
を受けて2014年に再設置されている。
36) 2019年⚗月18日の火災による。
37) 映画「涼宮ハルヒの消失」(2010年)。
魂の探訪記(後編)
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撮った写真には全てフレアのような光の帯が映り込んでいた38)。Oが、
「作画監督らがそういうこと(精神世界的なこと)を意図していたとは聞
かないが、まぁ何かあったのかもな」と軽く言ったところ、Nの友人は、
「いや、ここは高波動を感じるので(宇宙意識と)繋がっている」と断定
していた。
その後、甲山森林公園へ移動した。この付近は元々シャーマンの修行場
で龍脈が走っており39)、何らかの体験をする人がいるだろうと予測はして
いた。筆者には体験できなかったが「妖精がいた」、「木が手を振ってくれ
た」、「龍が昇っていくのを見た」など様々なことが起き、全てがアニメで
映像化されている場所と一致していた。
――イベント終了後
終了後、筆者とN、及びNの友人⚒人の⚔人が残り、喫茶店へ入って談
話をした。Nの友人らは、「作品があって聖地があるのではなく、何かと
繋がっている場所だから作品の舞台に選ばれたに間違いない」と口を揃え、
Nもこれに同意していた。勿論Nらは周りはそうは見ていないことを知って
おり、「次回の企画では原作者からの意見も聞いてみたい」としていた40)。
3 小括
「超越的な意識・並行世界・未来からの意識移動(タイムリープ)」など、
Mはそれを誰にも隠しておらず、Mにとって同作品は並行世界における現
実である。一方Nらは同作品と宇宙意識の繋がりを確認するための企画を
立ち上げた。Mが作品の中に生きているのに対してNは外側からアプロー
チをしている。しかし、「精神世界に重なる場所が実在している」とする
点で、両者は共通しているのである。
筆者はこれまで、用語の共通性やアンケート調査による量的研究から、
太田が指摘するように、精神世界に関係する用語が当たり前に浸透した結
38) この現象については(堀江 2019:202-203)に詳細が記されている。
39) 西宮市自然の家職員(男性40代)への聞き取りにもとづく(2016年12月28日)。
40) Pが「次は原作者も呼んでくる」と言っていたことを受けての発言。
魂の探訪記(後編)
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果、単純接触効果が高まり(宮本 太田 2008:6-10)、精神世界を容易に
受け入れられる下地をサブカルチャーが作ってきたと推察してきた(伊藤
2020a:67)。Bは、「実際にはじめての人にオーラの話をしてもすぐに受
け入れられる」ことを例にとってそれは十分にあり得ることだとしつつ、
「もうスピリチュアルをスピリチュアルと呼ばない時代に突入している」
と言う。Bによれば「サブカルチャーそのものがスピリチュアル」で、
「今の J-POP には UFO や霊、宇宙や未来からの通信という言葉が普通に
入っている。(Bが若い頃には)アーティストが曲にそんな歌詞を入れて
いれば、キワモノ扱いされる時代だったが、今の若者はそれを聴いて普通
に感動して涙を流す。習わなくても宇宙意識を知っている時代が到来して
いる」と続けた。
堀江の調査からは、サブカルチャーの世界について「虚構、趣味だと装
わなければならない」人の姿を見ることができた。そして今回の現地調査
からは、サブカルチャーの世界を「現実に繋がれる世界が描かれている」
として受け入れ、それを隠していない人たちの姿を見ることができたと考
える。
隠すか隠さないかという点において両者は違うが、サブカルチャーの世
界を自分の中に受け入れているという点においては共通する。どちらも
「存在しないという見解を十分に承知した上で、それをʠ信じているʡ」
(堀江 2011:161)のである。Bの話も加えれば、精神世界の中にサブカ
ルチャーは根付き、その一部になっており、外部からの影響や視線に関係
なく、その世界観は精神世界の中で、再文脈化されていっているとも言え
る。
終章
一.精神世界の変容
本論文ではこれまでの先行研究に加えて、質的現地調査の手法を用いて
「宗教」、「心霊研究」、「聖地」、「サブカルチャー」の視座から、より実態
魂の探訪記(後編)
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に即した精神世界についての理解を試みた。その中で得られた結論の⚑つ
が、それまで取り込まれてきたものが再解釈・再構築化され、新しい文脈
で語られはじめていることである。精神世界関連事業者の元牧師が、錬金
術、占星術、ユダヤ・キリスト教、グノーシス、ギリシア神話、チベット
神話、イスラム神話などの思想と各種精神世界の技法を「マルセイユタ
ロットの内実」として体系立てていたこともこの流れの⚑つと言えるだろ
う(伊藤 2018a:28・37)。
精神世界は短いスパンで変化し続けており(伊藤 2018b:111)、その
態様は「常に変化・追加・消滅・遡行を繰り返し」続けている(同
2020b:1)。しかし、今回の論文で取り上げた事象は、新しい技法や思想
の流行などの一部が変化しているというよりも、精神世界の形態が変容し
はじめたと言った方が良いのかもしれない。
本論文では誌面の関係上取り上げ切れなかったが、同様のことは「音
楽」、「理工学」、「心理学」、「医療」との関係でも起きている。一例だが、
これまで棲み分けをしていたホリスティック医療が、精神世界の技法を受
け入れる方向へと進んでいる41)。行政が後援する講演会に精神世界系の
NPO 法人が出展を行うといったことも(伊藤 2020b:15-16)、精神世界
の形態が変容している一例ということができるだろう42)。
二.総括
現在の精神世界が霊的ごった煮であるであることには変わりはない。し
かし同じ霊的ごった煮であってもそれが示す内容は違ってきている。これ
まで精神世界は、技法者・思想者がそれぞれ独自展開してきたものの総称
41) 『HOLISTIC News Letter』(NPO 法人日本ホリスティック医学協会)100-108号、
『日本スピリチュアル医学協会 会報誌』((一社)日本スピリチュアル医学協会)
2015年-2019年等のドキュメント調査による。『HOLISTIC News Letter Vol 108』
にはブース出展型精神世界イベント「癒しフェア 2020inTOKYO」(2020年11月22
日-23日)の無料招待チケットが同封してあった。
42) 終章では状態が変わることを「変化」、全体の姿・形が変わることを「変容」と
して使用している(2018『大辞泉』小学館)。
魂の探訪記(後編)
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としてそう呼ばれてきた。しかし今回の現地調査を用いた研究により、全
体を指す呼称ではなく、根本思想(同 2020:1)を軸として「精神世界」
という共通した地盤・基礎が浮かび上がってきている。
もちろん本論文で取り上げたものは今回の事例から読み取った精神世界
の一部分であり、現時点で精神世界全体について一般化できるものではな
い。よって、これを「新しい超越的宗教」の現れとして捉えるか(伊藤
2018a:98)、Bが指摘したような新しい時代の始まりと捉えるかについて
の結論を出すにはまだ早い。しかし本論文で検証した精神世界の実態から、
興隆から40年以上続いてきた精神世界は大きな転換期にあると言えよう。
参考文献
浅野和三郎 1938『心霊学より日本神道を観る』(心霊研究界出版部)
浅野和三郎著 黒木昭征 現代語訳 2014『心霊講座』(ハート出版)
市川裕 2010「聖地」編者星野英紀 池上良正 氣多雅子 島薗進 鶴岡賀雄『宗教学事典』
(丸善)
伊藤耕一郎 2018a「精神世界の宗教性について」(関西大学文学研究科 総合人文学専攻
哲学専修 比較宗教学研究 平成29年度修士論文)。
伊藤耕一郎 2018b「精神世界の再考察――宗教との関係から――」『関西大学 哲学 第
36号』(関西大学哲学会)
伊藤耕一郎 2020a「もう一つの民俗史――東アジアと『日本の霊性思想・文化』」『2020
ソウル・京都 東アジア次世代フォーラム』(高麗大学 立命館大学・大学院文学研
究科)
伊藤耕一郎 2020b「精神世界を問い直す」『千里山文学論集第100号』(関西大学大学院
文学研究科)
一柳廣孝 1994『こっくりさんと千里眼』(講談社選書メチエ)
井上円了著 東洋大学井上円了記念学術センター編集 1999『井上円了選集第十七巻』
(学校法人東洋大学)
井上順孝 1985「さらばオカルト・ブーム」『東京大学宗教学年報 別冊』(東京大学文学
部宗教学研究室)
江原啓之 2003『スピリチュアルな人生に見覚めるために』(新潮社)
大田俊寛 2013『現代オカルトの根源』(ちくま新書)
大道晴香 2020「パワースポットのメンタリティ」山中弘編『現代宗教とスピリチュア
ルマーケット』(弘文堂)
小笠原英晃 2019『精神世界の歩き方』(BAB ジャパン)
アラン・カーデック編 桑原啓善訳 2006『霊の書(上)』(潮文社)
魂の探訪記(後編)
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樫尾直樹 2010『スピリチュアリティ革命』(春秋社)
神尾学 2006『人間の基礎としての神智学』(コスモス・ライブラリー)
パトリシア・コーリー著 小林美香訳 2011『あなたはいまスターシードとして目覚め
る』(徳間書店)
清田益章 1991『発見!パワースポット』(太田出版)
小寺敦之 2011「『パワースポット』とは何か――社会的背景の検討とそお受容について
の予備的調査」『人文・社会科学論集第29号』(東洋英和女学院大学)
ドクターテリー・サイモンズ&アシュタールプロジェクト編 2011『こうしてアセン
ションしよう』(徳間書店)
櫻井義秀 2009『霊と金』(新潮社)
レイチェル・ストーム著 高橋巌、小杉英子訳 1993『ニューエイジの歴史と現在』(角
川選書)
スピリチュアリズム普及会 1996『続スピリチュアリズム入門』(スピリチュアリズム普
及会)
川村邦光 2007『憑依の近代とポリティクス』(青弓社)
島薗進 1996『精神世界のゆくえ』(東京堂出版)
鈴木正宗 五十嵐太郎 岡本亮輔 2016「人はなぜ聖地にひかれるのか」渡邊直樹編集
『宗教と現代がわかる本』(平凡社)
武富健治 2015『狐筋の一族 秘境と因習編』Kindle(太陽図書)
寺石悦章 2008「舩井幸雄の聖地論」『四日市大学総合政策学部論集 7(12)』(四日市大
学総合政策学部)
寺沢龍 2004『透視も念写も事実である』(草思社)
津城寛文 2005『〈霊〉の探求』(春秋社)
ジョリオン・バラカ・トーマス 2008「マンガと宗教の現在」国際宗教研究所『メディ
アが生み出す神々』(秋山書店)
中矢伸一「異次元空間は存在するか」舩井幸雄 2014『全ては必要、必然、最善』(ビジ
ネス社)
日本神霊学研究会編 2019『神霊学用語事典』(展望社)
H・P・ブラヴァツキー 田中恵美子訳 2018『神智学の鍵』Kindle(UTYU PUBLISHING
堀江宗正 2011『スピリチュアリティのゆくえ』(岩波書店)
堀江宗正 2019『ポップ・スピリチュアリティ』(岩波書店)
牧野内大史 2017『人生が変わる心のブロックの溶かし方』(シンクロニシティクラブ)
松村潔 2012『精神世界の教科書』(アールズ出版)
宮本聡介 太田信夫編著 2008『単純接触効果研究の最前線』(北大路書房)
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