寺尾誠『歴史哲学への誘い』3

【寺尾誠『歴史哲学への誘い』3】


暮しの手帖社の代理販売による
寺尾誠氏のとある哲学者に宛てた一方向的な書簡集。
ISBNコードなし。
一体、何部刷られたのかは不明のところ、
市販ルートに乗りにくい本で、
半自伝的要素が濃厚な歴史意識開陳本になっています。
西洋経済史専攻の寺尾氏を理解するカギは、
慶應の通信学部用に書かれた『社会科学概論』が、
明瞭であり、これにて、彼の実践意識を伺うことができます。
彼の問題意識は、全世界把握、これにつきます。
キリスト教とマルクス主義の折衷が、
基本的立場ともいえるところ、
両極に振幅していくのが特徴になっています。
研究対象と一体化していく癖が濃厚のところ、
いかに一体化しようとも、対象及び相手と本人は
別物・別人ですから、本人立場をいかに設定するかが、
研究主体の確立にとって、苦しい模索になります。
プロテスタントとマルクス主義との折衷、
というテーマの現代的表現は、
社青同解放派の流れを組む佐藤優氏あたりに、
代表的ともいえるところ、
マルクスを掌に載せることがむつかしいことの
別表現ともいえます。
総じて、社会科学は信仰であるとの立場を
寺尾氏は採用しますので、あとは、思い込みの強弱だけが
問題になるともいえます。
そして、新しい理論枠組みを提起できない場合は、
信仰する対象・相手を祖述する立場に回らざるを得ない、
というのが、社会科学系の研究者の特徴となり、
単に、祖述を繰り返すだけでは、新鮮味も何もない、
という結論に到達します。
それにしても、
博士論文が、
ドイツ農民戦争ですから、
ルターVSミュンツァーがどう処理されているのかは、
こちらは不知につき、論及不可ですが、
思想がいかに人々を掌握してしまうか、
という関心からすれば、
ナチズムが、どうして、政権を取ってしまったかを
研究するのと同じことになるでしょう。
あるいは、
本人がどうして、
キリスト教に差し込まれ、
マルクス主義にも差し込まれ、
最終的にM.ウェーバーの概念装置を拝借して、
何かを表現したいと思っても、
いろんなものに影響されやすい本人体質の自己分析を
経ないでは、次にすすめない、という心情吐露が、
半自伝的な書簡集にちりばめられています。
こういう個人的な事情を回避して、
純然たる研究対象を紹介祖述できない本人体質が、
自分でも問題になっているところが了解されます。
まぁ、晩年になりますと、
関心対象が拡散し、
いろんなものに興味をもったとしても、
もはや、狭いアカデミズムの範囲に
収まらなかったのだろうと察しがつきますけど。
学者にとどまるにしては、
色気がありすぎ、
かといって、評論家に転出するにしては、
あまりにもアカデミズムの概念操作に慣れ過ぎてしまった、
というところが、一般受けしないところでしょうか。
多分、寺尾氏を実際に知っている人くらいしか、
彼の書簡集に関心を寄せる人はいないでしょう。
ダ=ヴィーン∀!!

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