1※いまお悩みがあれば、こちら、からどうぞ。
【無料相談×診断】
2※新KillerCoilの無料メルマガ登録はいますぐこちら
【魂の探訪記(前編) : 精神世界研究に於ける質的現地調査の有効性】
面白い事例は下記のCとみている。
file:///C:/Users/desktop/AppData/Local/Temp/KU-1100-20210301-03-1.pdf
(※楽天ブログの性質上、
上記urlの属性が不正につきリンク不可)
—————————
魂の探訪記(前編) : 精神世界研究に於ける質的
現地調査の有効性
その他のタイトル Exploration of the Soul. Part 1 :
Effectiveness of Qualitative field survey in
Study on Japanese spirituality
著者 伊藤 耕一郎
雑誌名 千里山文学論集
巻 101
ページ 37-62
発行年 2021-03-01
URL http://doi.org/10.32286/00022675
― ―37
魂の探訪記(前編)
―精神世界研究に於ける質的現地調査の有効性―
伊 藤 耕 一 郎
論文要旨
精神世界(いわゆるスピリチュアル)に関する研究は、島薗進によって
提唱された「新霊性運動」を基礎に、宗教・聖地・サブカルチャーなど多
岐に渡る分野で論じられ、関係者のブログやホームページ、著書、市場へ
のアンケートなどを中心に研究されてきた。一方、現地調査にもとづいて
調査対象の実態の分析を行った研究は、筆者の知る限り多くない。
本論文はこれまでなされてきた文書研究・文書分析や量的調査に、現地
調査にもとづく具体的事例を加えることにより、先行研究の補完・発展を
試み、精神世界と関わりの深い「宗教」、「心霊研究」、「聖地」、「サブカル
チャー」の視座から検証を行って、精神世界に何が起きているのか、より
正確な実態に即した理解に寄与することを目的としている。前編ではなぜ
質的現地調査が必要なのか論じつつその事例を扱い、後編では引き続き事
例を扱いながら現代の精神世界の実態に迫る。
序章
精神世界が興隆してきたのは1970年代後半とされている1)。樫尾直樹は、
1) (江原 2003)に見られるように2000年代前半からはスピリチュアルという言葉が
使われることも増えてきたが、スピリチュアリティやスピリチュアリズムなど他の
用語や意味と混同されることが多く、現在でも大手書店の書籍分類で使用されてい
ること、内部関係者も「精神世界」という言葉を使うようになってきたことから、
特別な場合を除き、精神世界と記す。
魂の探訪記(前編)
― ―38
精神世界について、ヒーリングやヨガ・瞑想・気功・チャネリング・宇宙
人や UFO といった疑似科学的なオカルトや荒唐無稽な神話の混在など、
「ニューエイジのがらくたを継承して」(樫尾 2010:76)いると指摘して
おり、ストームの言葉を借りてこれを「霊的ごった煮」と表現している(同
上 2010:75)。島薗はこれらをグローバルな霊性運動群として、1991年以
降は「新霊性運動」という概念で捉え(島薗 1996:51)、戦後の日本の「霊
性思想」2)研究の基礎をつくった。
宗教の近辺にあって宗教でないものは、研究者によって、戦前は霊術・
療術ブーム、戦後50年代〜60年代はオカルト・超常現象ブーム、そして70
年代以降は精神世界と、その時代の特徴を捉えて概念付けられ、論じられ
てきた。
しかし、この分け方は明治時代に根を求めることができ(一柳 1994:
6-16)、連続性についての説明はほとんどなされていない。言い方を変え
れば、ジャーナリズムや学術研究者が、その時代の特徴を捉え、後から概
念付けしたのではないかという問題に突き当たるのである。
確かに霊術・療術・オカルト・超常現象という言葉自体は内部の雑誌
や著書から出てきた言葉であり、精神世界という言葉も同様である(瓜
谷 1996:26)。先述したように、これらの言葉が指すものについて内部か
らは多種多様な説明がなされてはきたが、正確に概念を示されることはな
かった。しかし日本の霊性思想の変化は早く、同じ精神世界という用語で
あっても、新新宗教よりも伝統宗教に親和性があるなど、先行研究では説
明が十分にできていない事例も出てきている(伊藤 2020:5-7)。
本論文ではこれまでの先行研究に、聞き取りや観察といった現地調査に
よる分析を加え、補完・発展させることにより、₁つの流れの中でより正
確な実態に即した精神世界の理解を進めることに寄与することを目的とし
たものである。
2) 吉永進一は、霊性思想・霊性文化という言葉を、「現代と過去、そしてそれ以前
をつなぐ歴史的の流れ」を表す言葉として使用している(吉永 2010:376)。
魂の探訪記(前編)
― ―39
第一章 精神世界研究とその手法
精神世界については、島薗が「新霊性運動」の概念を提唱して以来、様々
な方面から研究がなされてきた。これらの研究の中で筆者が対象とするの
は精神世界の技法や思想の一部にのみ触れる広義の精神世界やその関係者
ではなく、精神世界の根本的な思想(同上:1-2)を持っている狭義の精
神世界やその関係者である(同上:8-9)。以後精神世界及び精神世界関係
者と記す場合、後者を指すものとする。
₁ 現地調査による質的研究の現状
これまで、精神世界関係者やその思想についての検証は、Twitter やオー
プンな SNS、ブログ、関係書籍から、そこに書かれている内容や単語を
先行研究に照らし合わせて類型化・分析を行う文書研究・文書分析や3)、
アンケート調査などの量的研究が手法として多く用いられてきた4)。
これらに対し、現地での観察や聞き取りの分析を行う研究は5)、存在す
るものの筆者が知る限り少数である6)。
筆者はこれには₂つの理由が存在すると考えている。第₁に、直接会わ
ずとも Twitter などで研究対象の観察を行えばツイート内容から対象の
概要が掴め、ブログ記事を読めば精神世界の現状についての多くの情報を
得られること、第₂に現地調査において得られる情報の精査に必要とされ
3) 文書研究・文書分析も質的研究の₁つの手法である。また大谷は文書研究と文献
研究を分けており、研究結果が論述された書籍や論文を文献と定義づけている(大
谷 2019:157)。本論文においてはこの定義に従って両者を使い分ける。
4) 有元 2011など。
5) 筆者が調査対象に対して行う研究調査の指標として用いている文学研究科院生
協議会「学術調査に関するガイドライン及び倫理規程」(https://drive.google.com/
file/d/1efuUvwTSlKv5XyENqq7mcxya9tD50W1x/view?usp=sharing)において調
査手法は「観察」、「聞き取り」、「アンケート」に分類されており、本論文における
(質的)現地調査は「観察」と「聞き取り」を指すものとする。
6) 櫻井 2009、堀江 2011など。
魂の探訪記(前編)
― ―40
る時間と得られる情報量を考えると、効率が悪いことである。
₂ ブログやホームページ等を使った研究のメリットとデメリット
Twitter やブログをはじめとしたインターネットメディアの中に精神世
界の情報は溢れており、多くの事例を効率よく収集し、早く分析にかかる
ことができる。
ブログやホームページを使った研究手法は文書研究・文書分析の中に含
まれ、効率性、(情報の)入手可能性、費用対効果の高さ、そして研究対
象にこちらから反応する必要がないこと、研究対象と問題を起こす可能性
が極めて低いこと、そこに「書かれているという事実」(内容の真偽は別
として)の存在、範囲を広く研究調査することができるという文書研究・
文書分析のメリット(大谷 2019:158)を十分に活用した手法といえる。
大谷尚は文書研究・文書分析のデメリットとして、詳細のなさ、文書が
検索不能な場合があること、そして文書の作成者によるバイアスをあげ
ているが(大谷 2019:158)、堀江宗正は精神世界の技法の₁つである前
世療法の分析にブログを利用することについて、「インターネット上の情
報は信頼できないから使うべきではないという批判が根強くある。媒体の
社会的信用が薄く、著者が不明の情報を、学説や理論の根拠として使うこ
とができないのは当然である。しかし、研究対象の資料としては意味があ
る(中略)体験者の『モデル』の把握が目的であるなら仮に施術者が作
文したものでもかまわない」とし、複数のサイトから事例を取り上げるこ
とによって情報の偏りを無くすことを試みている。また「捏造や誇張の可
能性は通常のインタビュー調査でも起こりうることである」(堀江 2019:
131)と、インターネットの情報を用いた研究手法は批判されるべきもの
ではないとしている。確かに堀江が行った「現代日本の前世療法の分析」
(同上:131-152)に関して言えば、大谷の指摘するデメリットよりもメリッ
トの方が優っている7)。
7) 大谷の指摘する「文書の検索不能」は公文書が閲覧不可になっている場合などを
指すため、精神世界研究においてはデメリットとはならない。
魂の探訪記(前編)
― ―41
₃ 精神世界を取り巻く環境とブログやホームページ等を使った研究の限
界
しかし、現時点における精神世界研究という大枠の中で考えると、ブロ
グやホームページといったインターネットを使った分析には₃つの問題が
存在する。₁つが表現規制の問題である。精神世界関連事業を営んでいる
Aによると「スピリチュアルサロン8)の経営者は自分の技法にこだわりが
あり、『思い』と『想い』という漢字すら使い分けるほど自分のオリジナ
リティーを大切にしている」という9)。しかしここ₂年でブログやホーム
ページでは自分の思想を主張するのが難しくなってきた。
霊感商法被害に対応して2018年に改正された消費者契約法では、「困惑
類型」の₁つとして「霊感等による知見を用いた告知」による契約が無効
とされた10)。これは精神世界関連事業者を対象とした法令改正ではないが、
Aによると契約無効を主張され返金に応じた業者も複数おり、霊的なもの
を連想させる用語の記載を控えて事業者のブログやホームページでは「解
放」、「セラピー」などの当たり障りのない用語への書き換えが進んでいる
という。「こんな症状はありませんか」という文言をブログやホームペー
ジに記載することも医療行為の問診にあたり11)、自分の技法の効果につい
ての説明をすることも難しくなってきているのが現状である。
また、医療行為に関する規制は技法者だけでなく利用者にも適用され、
利用者が日記に「セッションを受けて治った」と記載したことについて、
技法者側が書類送致されたケースもあり、体験談でさえも当たり障りのな
い用語を使用するしかなくなってきているという。さらにこれがアロマな
どの物販になると、薬機法や食品衛生法などにより多くの規制がかかって
くる。Aは、「今後のブログやホームページの使い方は、技法内容にでは
なく、技法者個人に関心をもってもらうための導線としての比重が大きく
8) 精神世界関連事業者が施術や物販をするための事業所は総じてサロンと呼ばれる。
9) A(40代女性 三重県在住)への聞き取りにもとづく(2020年₉月14日)。
10) 消費者契約法の一部を改正する法律(平成30年法律第54条)。
11) 平成₉年12月24日付け健政発第1075号厚生省健康政策局長通知。
魂の探訪記(前編)
― ―42
なってくるだろう」と予測している。
₂つめの問題が、養成スクールによるブログの書き方指導である。「女
神のプロデューサー」として精神世界関連事業のコンサルタントをしてい
るBは、(精神世界関連事業者の)「ほとんどの人が技法を現実のビジネス
に落とし込めていないので、WEB で収益を上げられていない」とし、原
因は技法を教える「協会ビジネス」によるものだと指摘している12)。
最近になって精神世界関連事業を始める人の多くは、技法をスクールや
協会などが行う講習を受講して認定を受ける。しかし、ここでは技法の認
定はしても、実際のビジネスをどう展開させるかについての指導はほとん
どなされておらず、「まずは人のブログの真似をするように」と教えられ
ていることが大半だという。Bにコンサルタントを依頼してくる事業者の
中には、自分が書いた記事が他人に使用されていても盗用されたと考える
のではなく「自分のブログが真似をされるレベルになった」と喜んでいる
人もおり、Bは、「これも協会ビジネスの弊害の₁つだ」としている。B
は協会ビジネスに陥る人の特徴として「読み手(利用者側)だった時間が
長い人が多い」ことをあげ、「同じようなブログやホームページを読み慣
れてしまったことが、『真似されることは良いことだ』と錯覚する原因の
₁つになっている」と指摘している。₁つめの問題と「協会ビジネス」の
問題を合わせると、実態とは異なる精神世界関連事業者のブログやホーム
ページ広告が相当数インターネット上で展開されているということになる。
そして₃つめが「代筆者」の存在である。Bは「大手に限って言えばほ
ぼ100%代筆者が存在している」とし、「大手の事業主のブログは技法につ
いての『お役立ち記事』と自分の私生活などを書く『共感記事』から成っ
ており、この『お役立ち記事』に関してはまず代筆者が書いている」という。
Aも代筆者に依頼をしており、₁回の代筆者募集で最低30人程度の代筆
業者からの応募があるという。Aも基本的には「お役立ち記事」に該当す
るものを代筆者に任せている。その理由として「ブログに手を割く時間が
ないこと」と「代筆者の方が、本人が書くよりは表現によるトラブルをう
12) B(50代女性 兵庫県在住)への聞き取りにもとづく(2020年₉月21日)。
魂の探訪記(前編)
― ―43
まく回避してくれる」ことをメリットとしてあげている。「技法者個人へ
の関心」に繋がる共感記事に関しては基本的には自分で書いているが、さ
らに大きな事業者になると、これも手分けして₂〜₃人の代筆者が書いて
いるという13)。
₄ 現地調査の必要性及び研究手法
これまでは、ブログや SNS などのインターネットを使った研究では複
数・別々のサイトからの事例を扱うことで偏りを回避することがある程度
可能であった(堀江 2019:131)。しかし、上記に示した表現規制の問題、
協会ビジネスによる類似ページの増加、代筆者による執筆が増えてくるこ
とは大谷の指摘する「文書の作成者によるバイアス」という文書研究・文
書分析のデメリット(大谷 2019:158)の占める割合がこれまでより大き
くなることを示している。
筆者はインターネットを使った研究が今後は使えないとは考えてはいな
い。多くの情報を収集できるインターネットを使用した調査は、書き手の
年齢や性別、その技法についての記事傾向を知るには依然として有効な研
究手段である。
ただ、今後もAの言う「技法者個人に関心をもってもらうための導線」、
「利用者の感想の画一化」の方向へブログやホームページが進んでいくの
であれば、事業者が行う技法の特徴や利用者自身が抱えている問題・セッ
ションの結果などについては、技法者や利用者から直接聞くしか詳細が得
られない場合が多くなってくると考えられる。AやBに対しての聞き取り
を通して、現在の精神世界関連事業者や利用者の間に起こっている問題を
知ることができたことも、この₁例ということができる。
これまでの研究手法に現地調査による質的研究を加えることで、研究
の妥当性を高め、補完・発展を促す研究手法がある(サトウ 春日 神崎
2019:232-236)。先に述べた通り筆者は聞き取りや観察といった現地調査
13) ブログを注意深く読むと「・・・」の使い方や「!!」の使い方、顔文字の使い
方などで何人の代筆者がいるか分かるという。
魂の探訪記(前編)
― ―45
高いことが判明している(伊藤 2020:6-7)。
2 これまでの筆者の研究
精神世界関係者はこれまで新新宗教に対してほとんど興味を示してこな
かった。たとえば、精神世界関係者に行った「霊能的な技法を持つ新新宗
教について」のアンケートで霊能的な新新宗教に体験入会してみたいと
答えた人は₂%で、体験してみたくない・興味ないが85%、分からないが
13%であった15)。また精神世界と親和性のありそうな宗教として神道・古
代宗教などをあげた人が34%、仏教が32%、キリスト教が24%で、新新宗
教をあげた人はいなかった。
もともと「脱宗教の目覚め」だとして提唱された「精神世界」(瓜谷
1983:32)だが、現代においては伝統宗教と精神世界は対立するものでは
なく、親和性から一歩進んで併存・共存関係になってきたといえるのでは
ないだろうか。しかしこれまで言われてきた新新宗教と精神世界との間の
親和性(島薗 1996:20)から現代の精神世界が変化していると、アンケー
ト結果からだけ結論を出すのは早計である。そこで、筆者は質的現地調査
によってこれを補完・発展することを試みた。
3 現地調査における宗教と精神世界
(1) 事例₁(仏教)
――調査対象C(40代男性 大阪府在住)
精神世界関連事業者、臨床宗教師、スピリチュアルケア師
15) 2018年₆月₈日・2019年₈月17日「スピリチュアルに関する意識調査」の合計(伊
藤 2020:5)、有効回答数は79、設問内容は「性別」、「年代」、「あなたはニューエ
イジとは何か知っていますか」、「あなたは GLA または真如苑という宗教を知って
いますか」、「あなたは波動やミーディアム、宇宙例を意識する霊能技法を提供する
宗教に体験入会してみたいですか」、「体験入信をしたくない理由は何ですか」、「ス
ピリチュアルと相性が良いと思われる宗教はどれだと思いますか」、「スピリチュア
ルの中心となる思想は何だと思いますか」、「ライトワーカーとは何を指しています
か」の₉問。
魂の探訪記(前編)
― ―46
聞き取り(2016年12月₆日)
――精神世界関連事業を開始するまで
Cは大学卒業後すぐに大手航空会社に就職し、乗客の手配をする部署に
配属された。その中で「新婚旅行から大喧嘩している夫婦」や「親の危篤
に顔を青くして飛行機に乗る人」、「理由は分からないが暗闇をずっとみつ
めながら、夜間便に乗り込んでいく乗客」など多くの人々を見ていく中で
「本当に人にとって必要なサービスとは何なのだろう」と問い始め、仕事
をしながら「癒し系」の技法を取得していった。飲み込みは良い方だと自
分でも言っていたが、Cは「レイキなどの各種ヒーリング」、「リーディン
グ」、「ヒプノセラピー」など一通りの精神世界の技法についてマスターした。
Cのいう「マスターする」とは、認定証を貰ったということではなく、
自分の技法が人に対して自分の思った通りの効果を発揮させられたときを
指し、「自分の中で₄割の回復を見込んで施術したものが、全快してしまっ
た場合はマスターとはいえない。自分が見立てた内容と同じだけのことが
できて始めて技法をマスターしたことになる」とのことだった。Cにどれ
くらいの技法をマスターしたのかを尋ねたところ、₁つ₁つ説明してくれ
た。
――密教への関心
Cはできるだけ多くの技法を使えるようになりたいと考え、あらゆる精
神世界関係のセミナー等に通い、実際にそれをマスターしてきたという。
その中にあって「実際に自分が会得してきた技法は効果をあげている。し
かし、自分がしたかったことはこれなのだろうか」という疑問が浮かんで
きた。この疑問はやがて「人を助けて少しでもよりよく生きて欲しいと思
いながらも、最終的に自分は何を求めているのか」というものに変わって
いき、Cを苦しめることになった。
₁つのヒーリング技法を使えば利用者は「楽になりました」と言ってく
れる。しかし別のヒーリングの技法を使っても同じような効果が得られる。
使っている技法は別であっても利用者にとってもたらされる結果は同じで
魂の探訪記(前編)
― ―47
はないのか、超越者との交信にも様々な技法が存在するが、これも利用者
にとっては得られる結果はほぼ同じである。なぜこれほど多くの技法が存
在するのか、実際に自分は利用者に一番適した技法を使うことができてい
るのか。
多くの精神世界の技法の存在と、それをマスターしたことが、Cにとっ
ては疑問から重荷へと変わっていき、結果Cは「自分が疑問を持っている
状態で人を助けるというのはおかしい」と考えた。退職しこれと向き合う
ことも考えたが、まずは初心に返って自分が会得してきた技法について₁
から確認することからはじめた。その中でCは、「何か全てを結ぶ中心的
な思想があるはずだ」という結論に達した。最初に技法を習った事業所の
所長に相談したところ、所長も以前に同じ問題について悩んだことがあり、
密教にヒントがあるのではという結論にたどり着いていたという。そこで
Cは密教に対して強い関心を持つようになっていった。
――真言密教による技法の統一
Cは形式だけではなく、正式な阿闍梨になる過程を踏んでこそ分かるこ
とがあると考え、師僧を定め、在家のまま阿闍梨を目指すことにした。そ
の過程の中でCは、「全ての技法は密教によって統一される」という確信
を得た。そこでCは退職して高野山の某寺の住職阿闍梨の元で本格的な修
行を行い、正式に真言宗の阿闍梨の資格を得た。
その後Cはあらためて、自分がマスターした技法を真言密教と照らし合
わせながら₁年がかりで体系化していった。結果として利用者に対しての
効果は同じであっても技法が違うものについて、「なぜそれが別々に存在
しているのか」、「その必要性とは何か」など、これまでCが疑問に思って
きたことが理由づけられ、このことによってCはこれまで敬遠していた技
法に対しても必要であれば学ぶことに躊躇がなくなった。
Cはそれぞれ体系化したものについて「価値観を変えるもの」、「高次元
の体験」、「霊能の開花」、「超越者との接触」、「霊的存在との交信」、「憑依」、
「過去体験」の₇つに個々の技法を当てはめて、全て「密教という軸」によっ
魂の探訪記(前編)
― ―48
て統合され得ることを説明してくれた。
とはいうものの、精神世界の技法の中には機器を使うものもあり、ヘミ
シンク16)などがどう密教と関係するのかが分からなかったので質問したと
ころ、「ヘミシンクは人間の脳に作用し、瞑想を深くするための機器とい
える。密教では真言を唱えて心を統一して瞑想に入るが、瞑想の目的は真
言を唱えることではなく瞑想の後に得る何かにある。とはいえ瞑想には修
行が必要で誰もができるものではない。ヘミシンクを使用することによっ
て瞑想状態に入るまでをアシストすることができ、修行の一部をサポート
するものとして捉えることができる」とし、さらに「瞑想の先にあるもの
を得るのが目的なので、何かが見えて終わりではなく、そこから『大日如
来が何を教えようとしているのかを意識すること』が大切」ということだっ
た。Cは、「利用者はセッション終了時に『高次の体験をして気持ち良かっ
た』で終わることが多いだろうが、いつかそこから利用者が大日如来にど
こまで近づくことができたかを考える機会になれば良い」という。
またCはその他の各種技法について、空腹であっても胃がもたれている
ときとそうでないときとでは食べたくなるものが違うように、その時その
人に必要なエネルギーが「大地からのもの」なのか「宇宙からのもの」な
のか「別の存在からのものなのか」は違うとし、「誰でも密教によって即
身成仏、つまり大日如来と一体となる道は開かれているが、その修行法や
行程は人によって違う。誰にでも開かれている道である以上は、心身や身
の回りの諸問題に関しても修行と同様、その人に応じた技法が用意されて
いる」と言う。この大日如来は精神世界でいう宇宙意識と同一であり、密
教と精神世界が矛盾することはないということであった。これはカードに
ついても同様で、西洋のものであるとイメージの強いタロットでもデッキ
の組み方を学べば「西洋曼荼羅」という解釈ができ、密教の曼荼羅と同じ
理屈で成り立っており、利用者が心を開きやすい方を使えば良いというこ
16) アメリカのモンロー研究所の特許技術。左右の耳に振動数の若干異なる音を聞か
せることにより、左右の脳半球を同調させ、意識をさまざまな状態へと誘導し、超
常現象体験を可能にする(日本神霊学研究会 2019:282)。
魂の探訪記(前編)
― ―49
とであった。
――Cの精神世界観
Cから見ると精神世界の現状は「むやみに技法に走りすぎている」よう
に見えるという。「力の使い方が分からず悩んでいる同業者に手を差し伸
べることもせず、自己中心的な事業者が多い」、「マルシェ形式の30分単位
での技法の切り売りでは利用者に本当に必要なものは提供できない。この
ようなやり方を続けていけば利用者だけでなく、事業者が自らの首を絞め
ていく結果になる」と、精神世界ブームの中心にあるブース出展型イベン
ト(伊藤 2020:11-12)については批判的であった。
――Cの宗教観
Cにとっての宗教は「特別なもの」であるという。宗教には教義や決まっ
た時に祭儀があり、この教義や祭儀の意味や深いところを理解し体感でき
ないと宗教による救済を受けることはできないとCは考えている。
そのため、「宗教は否定しないが、救済に至るまでのプロセスがあまり
にも複雑で、誰でも実践するのは難しいものである」とし、自分は多くの
技法を統合するための中心を持つために密教の修行と教学を修めたが、誰
もがそのような過程を経る必要はなく、自分の状況を改善するには「まと
もな技法者」を利用するのであれば精神世界の技法で十分であるとしてい
た。
Cは、精神世界の技法者が本来学ぶべき「特別なもの」として宗教を位
置づけていた。
――真言密教と精神世界関連事業
聞き取り当時、Cのサロンには密教の法具とタロットカードやオラクル
カードなどのカード類、その他各種精神世界の関連機器が揃っており、ホー
ムページにもパワースポットツアー 17)も行う精神世界関係のサロンであ
17) Cは前職の関係でツアーコンダクターの資格をもっており、事業所は正規の旅行
代理店の登録がなされている。
魂の探訪記(前編)
― ―50
ることを明記していた。
Cのホームページを見た際、正式に真言宗の阿闍梨が、精神世界事業を
営むことについて問題はないのかという疑問があり、Cを訪問するに先
だって高野山大学を訪問した。
Cのホームページを見せて先の疑問について尋ねたところ、案内をして
くれた職員は「うちを卒業したにせよ違うにせよ、資格を取れば立派な阿
闍梨ですから独立は可能です」、「密教にも実は天の川占いというものがあ
り、これを応用すれば様々な占いと組み合わせることができるので、その
方がタロットと組み合わせるのは可能じゃないでしょうか」とCがサロン
を開いていることについては特に問題はないということだった18)。
――Cのその後
現在の精神世界関係者の中には「コロナウィルスは怖くない」という人々
もいるが、Cは「怖いと思う人と対面でセッションを行うことは、そもそ
も相手が恐怖を感じている時点で意味がない」とし、基本はリモートでセッ
ションを行っている19)。一方「宗教は特別なもの」というところから「ス
ピリチュアリティの内奥は宗教性と結び付いている」と考えるようになり、
単純に現状を改善するだけではなく「人間の尊厳に関わる領域、対処療法
では決して癒やせない究極的かつ根源的な領域のケアができ、表面的でな
い宗教性に触れることが大切だ」として臨床宗教師・スピリチュアルケア
師の資格を取り、緩和ケア病棟などでの活動もしている20)。
(2) 事例₂(仏教)
――調査対象D(50代女性 大阪府在住)
精神世界関連事業者(カードリーディングを主とする)
聞き取り(2018年12月26日)
18) 高野山大学企画課職員(30代男性)への聞き取りにもとづく(2016年10月₄日)。
19) Cへの聞き取りにもとづく(2020年₅月19日)。
20) 同上(2019年₈月25日)。
魂の探訪記(前編)
― ―51
――精神世界との出会い
Dの実家は真宗大谷派住職の家系で、父親からはかなり厳しく育てられ
たという。親の言いつけを聞くことは当然のことであり、普段の生活も親
に言われるままだった。親に反発を覚えた時期もあったが、結局は親の言
いなりに生きてきたという。高校卒業後も親が勧める仏教系の短期大学幼
児保育科に進学した。
幼児に対しては「言うことを聞かない、汚いから触れたくない」と好き
ではなかったが、「幼児教育」には興味があったので短大での生活に苦痛
を感じたことはなかったという。
Dの在学当時、大学ではタロットカードが流行しており、Dはタロット
カードのリーディング21)を受けてからカードそのものに興味を持つよう
になり、やがては西洋占星術をはじめ占い全般に興味を持つようになった
という。Dのカードリーディングの基礎は短大時代に友人を相手に色々と
試した中で培われ、同時に精神世界の根本思想についての理解も深めて
いった。
大学を卒業した後の進路を自分で考えることはなく、親の勧めで保育士
になり、数年間保育士として働いた。寺(実家)の附属の幼稚園かと尋ね
たところ、実家は幼稚園付きの寺ではなく知り合いの幼稚園にコネで就職
をしたとのことだった。この親のコネということがDを縛り、幼児が嫌い
だったDにとって就職してからの毎日は苦痛の日々だったという。
保育士をしている間もDはカードリーディングを独学で研究していた
が、苦痛な毎日の中でこれを学ぶ時間はDが唯一充足感を得られる時で
あった。そこで「やはりきちんと技法を習おう」と考え、Dはセミナーで
カードリーディング全般の講座を受けることにした。しかし逆にこれがD
をカードから離れさせるきっかけになった。20万以上の受講費用を支払っ
たにも関わらず、そこで教えられたのは自分で学んだ内容と何も変わらな
21) ここでいうリーディングは、タロットカード占いで現れた内容を読み取ること。
占い手の経験、価値観など個人差が影響することが多い(日本神霊学研究会編
2019:322)。
魂の探訪記(前編)
― ―52
いどころか、既に短大時代には理解していたことばかりで、Dにとっては
「お金をどぶに捨てたようなもの」であった。「レベルの低い資格ビジネス」
に失望したDは、カードリーディングというものに対する情熱が一気に冷
めてしまい、カードを全て捨てようとも考えたが、タロットカードだけに
はなぜか愛着が残り、自己流での勉強を続けることにした。
――精神世界関連事業所の開設
そのような勤めの後、Dは父親から幼稚園を退職し僧侶として勤務する
ようにと言われた。親の寺を継ぐわけではなかったが(兄弟がいたためと
思われる)、僧侶になることは既に親の中では決定事項となっていたよう
で、進学・就職・転職と親に逆らうことはできず、某寺に僧侶として勤務
することになった。
法要のために忙しく檀家を回るDに転機が訪れたのは、法要先から持ち
かけられた相談がきっかけだった。「持ち主が亡くなって使わなくなった
古民家があるが、駅からは近いものの敷地が入り組んでおり再利用が難し
く、取り壊すにも費用がかかるし困っている」という話に何かを感じたD
は、その古民家を一度見にいくことにした。
その古民家は入り口からは建物が見えず、長い通路を通って玄関にたど
り着く構造となっており、第一印象は「みすぼらしい家」であった。しか
し建物の前に立って静かに回りを見渡していると、「草むしりをして、そ
こに植わったハーブ、自然さを失わない程度に木々の剪定をしてある庭の
イメージ」が浮かび、そこへの結びつきを感じたという。施設の玄関奥に
は短い廊下があり、玄関を入ってすぐ手前に和室が₁つ、そこから進むと
廊下沿いと奥に別に₂つの和室があった。「廊下と玄関の照明を全体的に
暗くして間接照明だけで照らせば家屋内も静寂を保つのに適しているので
は」とさらにDのイメージは膨らんでいった。結果としてDはここをタロッ
トカードを主とする精神世界関係のサロンにすることにし、カードリー
ダーを副業として開業することにした。これはDが自分の意思ではじめて
魂の探訪記(前編)
― ―53
Dは、古民家は場所として「たまたま与えられただけ」、「運が良かった
だけ」、「イメージが膨らんだだけ」で特に何かからの力を感じたわけでも、
啓示があったわけでもないと言う。しかし、Dはその古民家を元の持ち主
から遺贈されており22)、表面には出さないものの「自分のために、大きな
力が働いて与えられた場所である」と考えているのではないかと思わせる
言い回しを言葉の端々から伺うことができた。
――Dと精神世界技法
Dは普段は僧侶として活動しているため、カードリーディングは、予約
が入れば行うという方式をとっている。オラクルカードや各種カードを使
うこともあるが、基本はタロットカードを使用しており、特に恋愛に関す
る相談についてのリーディングが得意ということであった。「恋愛感情は
自分の意思が一番働く部分であり、ワンネスの中心となる愛に一番近い部
分だからこそ重要」ということであった。
技法についていえば、D自身が「独学なので趣味程度」と言っていると
おりで、タロットをシャッフルすることをはじめ、カードの扱い方などを
見る限り、これまで見てきたカードリーダーの中ではレベルが高いとは言
い難かった23)。しかし独学であることを考えるとこれは仕方がないともい
える。
普段は予約があったときのみサロンを開いているが、年に₂回は一日中
建物を占いの館として解放するイベントを行っている。また、出張活動と
して年に₁回(₂日間)車の展示会場で占いコーナーを受け持っており、
₂日で40人ほど占うが、かなり疲れるので負担になっているとのことで
あった。
Dが使っているタロットはウェイト版とゼンタロット(禅タロット)の
₂種類で、ウェイト版はタロットのビジュアル面が強調されたもの、ゼン
22) 登記情報を利用した事前調査による(民事法務協会 2018年12月17日取得)。
23) 筆者はこれまでカードリーディングを行う多くの技法者への調査を行ってきた
が、長年タロットカードを扱ってきた技法者は共通して「タロットの場合、カード
はシャッフルしないことが絶対である」という。
魂の探訪記(前編)
― ―54
タロットはオラクルカード的な使い方をしているため正確にはタロット
リーディングとは違う技法のように感じた24)。また猫タロットというもの
が飾ってあったが、どのように使うかについては説明をはぐらかされた。
その他にもDは各種カードのデッキを持っており、飾り方からカードのコ
レクションをしているようにも見えた。
――僧侶と精神世界関連事業
僧侶とタロットとのどちらがメインなのかを聞いたところ、Dは「本職
は僧侶」と即答し、一番大切なのは勤務先である寺の仕事だという。だが
Dは「趣味程度」としながらも単なる趣味でカードリーディングを終わら
せるつもりはなく、多くのカードを扱えるように独学で今後も幅を広げて
いきたいということであった。
カードリーディングと仏教との間に、また精神世界の根本思想と仏教と
の間に矛盾を感じないかと聞いたところ、「カードリーディングは仏教の
教えの延長線上にある」とし、いくつかの例を出して仏教とタロットとの
共通点について教えてくれたが、内容的にはCのような説得力のあるもの
ではなかった。しかし、「カードは檀家の方に説法する際に自分のために(タ
ロットを使って)足りないものを補いつつ、必要なアドバイスを別の視点
で与えてくれる意味では仏道に適っている」という回答には納得できた。
カードリーディングのためのサロンを持っていることやイベントに出展
していることなどについて、勤務先の寺や父親に咎められてないのかを尋
ねたところ、「タロットをしていることは知られているが、特段禁止も注
意もされていない。サロンを始めた当時は今の仕事(僧侶)に支障のない
範囲であれば問題ないと言われていたが、ブログを開設してからは僧侶で
24) タロットカードは、本来未来を読み取るもので、カードから正確にリーディン
グするにはカードの上下の位置の両方から読み取るなど熟練を要するが、オラク
ルカードは、深層心理を含めた「今の自己」を読み取るために使用され、タロッ
トカードに比べて使い方が単純で初心者向けとされている(ヴィジョナリー・カ
ンパニー「日本のタロットカード・オラクルカード全集」2020年10月₈日閲覧、
https://oracle-tarot.jp)。
魂の探訪記(前編)
― ―55
あることを隠さずに仏教の法要に関する記事も載せたらどうか」という提
案も受け、檀家・利用者(ブログ閲覧者)の双方に隠すことなく活動して
いるということだった。
(3) 事例₃(キリスト教)
――調査対象₁ E(50代女性 大阪府在住)
プロテスタント教会 牧師
聞き取り(2017年11月23日)
調査対象₂ F(40代女性 大阪府在住)
プロテスタント教会 信徒
聞き取り(2017年11月23日)
調査対象₂ G(40代女性 大阪府在住)
精神世界関連事業者(チャネリング、スピリチュアルアドバイザー)
聞き取り(2017年11月25日)
――聞き取りに至るまで
筆者が精神世界に関する研究調査を行っていることを知っている知人か
ら、「チャネラーと懇意にしている牧師がいるが会ってみたいか」と聞か
れたので仲介を頼んだ。Eから同事例の関係者であるFも同席させたいと
申出があり、₂人から同時に聞き取りを行うことができた。
――Eが牧師になるまで
Eの夫はプロテスタントの主流教派の教職者で、教会では夫が主任牧師
Eが副牧師である(職能は同じ)。
夫が神学部、神学研究科を出て牧師になったのに対して、Eは結婚前は
看護師をしており特に教職者になるつもりはなかったという。
Eが牧師を目指すようになったのは、看護師をしていた病院の配置転換
でホスピス病棟に移動になったのがきっかけだという。両親もキリスト教
徒で「模範的に聖書の教えに沿った生き方」を目指していたEにとって、
魂の探訪記(前編)
― ―56
ホスピスは「愛の実践場」であったという。死にゆく人の現場に立ち会う
ことは辛いことではあったが、人に寄り添い心を通わせているときEは
少しだけ神の愛を実践できているような温かい気持ちになれたという。ホ
スピス病棟で働くうちに「もっと神の愛をもってこの人に寄り添っていた
い」、「イエスが言ったように時が良くても悪くても福音を宣べ伝える者に
なりたい」という気持ちが大きくなっていった。しかしEが勤務している
病院は宗教系の病院ではなく、宗教的な話を患者にすることはできなかっ
たため、Eは一種のジレンマを抱えることになった。
そんな中、自分が通う教会の牧師に相談したところ、「働きながらでも
(牧師の)資格をとってみてはどうか」というアドバイスをもらい、「自分
の職場に活かせるかどうかは別として、もっと魂の深いケアをするために
は、まずは自分ができることからはじめよう」と考え、働きながら、神学
校へ行かず₃年間かけて教派の教師検定試験を受け、これに合格し、看護
師を続けながら₃年間伝道師(牧師補)として教会で奉仕し、その後牧師
の試験に合格した。この頃にEは今の夫と出会い結婚をしている。
伝道師として過ごしている間、心に闇を抱えた様々な人が教会を訪れた。
Eはその₁つ₁つの相談にのるうちに、「普通の生活を送っているように
見える人の方が闇が深いこともある。もしもこの人たちの魂のケアがなさ
れているのであれば(病気になる)もっと手前で平安を得ることができる
のではないだろうか」と考えるようになった。
そこで副牧師として夫を支えながら、自分は信徒の魂のケアをする役割
を担うことを決意して職場を退職した。その後、いくつかの教会移動を経
て大阪にある某教会に副牧師として着任した。
――信徒Fからの相談
「魂のケア」を常に考えていたEに「どうしたら良いのか分からない」
と思わせる事案を持ち込んだのが信徒のFだった。
Fの悩みは確かに「魂の深い悩み」ではあるのだが、「あまりにも具体
的すぎて」Eはどう対処したら良いかわからなかった。Fが相談してきた
魂の探訪記(前編)
― ―57
内容は「自分の家に何者かが侵入して汚物を蒔いていると夜中に霊(何の
霊かは分からない)が知らせてきた。無視しているとゼリー状の物体が庭
にまき散らされていた。しかし目を覚まして庭に出ると汚物は無く、異臭
が漂っている」というものだった。
最初は警察に相談をするようにFに勧め、Fに付き添って所轄まで一緒
に行って頼み込んだ結果、朝方に₁週間だけ巡回をしてもらえることに
なった。
警察が巡回するようになってからも霊は「汚物がまかれている」ことを
告げてきており、Fが驚いて庭に出るとやはり異臭が漂っていた。EとF
は警察に巡回の時間を増やして貰えないか相談したが警察からは「事件も
起きていないのに、そこまで人員は割けない」と言われた。Eは親身にな
りFの家に泊まり込んだこともあったが、一度だけ霊が告げた日に一緒に
庭に出てみると確かに、なんともいえない異臭が漂っていたという。
Eは「このままではFが心身症になってしまうのでは」と心配になり、
なんとか悪戯をしている者を見つけてその行為を止めさせなければと思
い、調査会社に監視器機の設置と₁週間の見張りを頼んだ。しかし、異臭
については確認されたものの実際に汚物がまかれている現場を確認するこ
とはできなかった。最初は調査業者のサボタージュであると考えたEだっ
たが、何度も報告書を読み、本当に誰も侵入していないという結論を出さ
ざるを得なかった。
EにとってはFのいう「霊のお告げ」に関してはあまり関心がなかった。
それよりもFの精神状態がどんどん悪くなっていく方が心配であった。F
は不安になると教会を訪れ、恐怖と正体不明の悪戯相手への怒りをぶちま
け、やがて毎日のように教会に相談にくるようになった。
ここまでくると、相談にのっているはずのEの方が投げ出したい気持ち
になっていたが、なんとかそれを思いとどまらせたのは副牧師という職務
への責任感であった。
――Gとの再会
魂の探訪記(前編)
― ―58
「自分は何もできない、無力だ」と感じていたときに、看護師時代の同
僚のGから連絡があった。Gも病院を退職しており、「一度退職した者で
飲み会でもしませんか」と誘ってきた。GはEよりも₄歳年下の後輩で、
仕事の段取りは悪かったが、自分よりも患者に深く寄り添っており、「心
のケア」の面では一目置いていたという。
飲み会の席で、再会したEに対して「何か大きな問題を抱えていますよ
ね」とGは切り出した。Fのことを言い当てられたように感じたEは「本
当にここだけの話だけれども」とFの事件の概要を話した。そこでGから
返ってきた答えは、「Fさんに語りかけている霊に聞いたらいいんじゃな
いですか」と意外なものだった。
「普段であれば、相変わらず馬鹿なことを言う子だと笑い飛ばしたかも
しれない」とEは言う。しかしこのときEは実際に起こっている事象にと
らわれてFが言っていた「霊が告げた」という部分が自分から完全に欠落
していることに気付いた。「確かに霊のことは全く気にしていなかった。
でもどうやって霊に聞くのか」とGに問いかけると、Gはバックからゴソ
ゴソと名刺を出してEに渡した。そこには「幸福のチャネラー、スピリチュ
アル・アドバイザー」という肩書きでGの精神世界サロンの名が書かれて
いた。
精神世界について全く知識がないEは「これは何の仕事なのか」と尋ね
た。Gは「簡単に言うとその人に関係している霊や、無意識の自分と話を
して、そこから得られたことを元にアドバイスをする仕事だ」と答えた。
Eが「魂の深いケア」を目指して看護師から牧師になったように、Gは「よ
り魂と触れ合うこと」を目指して精神世界の技法を学び、現在のサロンを
開業したということだった。
――問題の収束
GをどうFに紹介したら良いか分からなかったが、Eは思い切ってその
まま「霊と話しができる人と会ってみるか」と聞いたところ、藁にもすが
る思いであったFはGに会うことを決め、₃人で会う日が決った。Fの自
魂の探訪記(前編)
― ―59
宅へ₃人で出向き、GはFの手を握り何かと交信をはじめ、会話するよう
に何度も頷いた。その後、深く息を吐いて「分かりましたよ」とGが交信
した内容について話してくれた。
Gが交信したのはFのハイアーセルフ25)で、実際にFの庭に異臭をま
いていたのは裏に住む女性の生き霊であった。汚物がまかれていたのはF
が出てこなかった際に、隣の女性の無意識が何かを投げ入れただけで、臭
気の原因は生き霊そのものにあるということだった。しかしGが「何か隣
に恨みをかうようなことはしていないか」と聞いたところ、Fには全く身
に覚えが無かった。
そこで、Gが庭全体をリーディングしたところ、猫のイメージが表れた
ので、Gは隣に猫による被害がないかについて調べることをFに勧めた。
とはいうもののFは理解を超えた説明に錯乱気味で、Fの代わりにEが裏
の女性を訪ね、「自分の信徒宅(F宅)が猫の被害にあっているのだがお
宅は大丈夫ですか」という聞き方をしたところ、女性宅には夫が亡くなっ
てから夜中になると猫が裏庭に集まるようになり、糞尿被害やゴミを漁ら
れるという被害が出ていたことを話してくれた。Fのことを恨んでいたわ
けではなかったが、「ひょっとしたらFが猫を飼っていて嫌がらせをして
いるのかも」と何度か思ったことがあるということであった。Fが猫を飼っ
ておらずF宅にも同様の被害が出ているということを聞き、「近隣の問題
として取り上げてもらえるように」とEを挟んでFとの間で話し合いが持
たれ、町内会の議題となったそうである。
なぜ生き霊が異臭を放つのか、結局まかれたゼリー状の汚物は何だった
のかについてGは、「実際にその場に居なかったのでなんともいえない」
としつつも、「今後このような問題が起こることはないですから」と言い
切った。それ以来、Fが霊の声を聞いたり、異臭や汚物に悩まされること
はなくなった。
――牧師と信徒にとっての精神世界技法者
25) 高次元にある自己の魂の側面(日本神霊学研究会 2019:255)。
魂の探訪記(前編)
― ―60
筆者から見れば、チャネリングは一種の霊媒であり、キリスト教的な行
為ではないと思えたが、Eの解釈は違う。「自分がどうしようもないとき
にGが電話をかけてき、Gがそのような(チャネラーとしての)仕事をし
ていたからこそ解決が与えられた。そこに神の力が働いたのであり、それ
はFの問題の解決を祈った結果」であるということだった。
魂のケアを考えてきたのならば、キリスト教的な霊の対処方法はなかっ
たのかと尋ねたところ「キリスト教では口寄せや霊媒が禁止されているの
で、自分達(牧師)がそれに加担するようなことはできない」、「だからこ
そ、それができるGが遣わされたのだ」と言っていた。これについてはF
も全く同意しており、「今後このような問題が起きることはないと思うが、
もしもあっても最初にはEに相談し、Eを通してGのような人に相談する」
ということだった。
最後にEに、今回のように精神世界の技法者に頼むことはキリスト教の
教義として問題ないのかと尋ねたところ、「自分がやるのではないから問
題ない。むしろそういう解決策が今後与えられたことによって多くの悩め
る人の相談に乗れるのだから喜ぶべきことだ」という。また、主任牧師の
夫もこの方針(霊を直接扱う問題は今後はGを紹介する)に賛同している
ということだった。
――Gとキリスト教
Gにキリスト教の牧師からの紹介があったことについてどう思うか聞い
たところ、「別に不思議なことではないし、西洋ではミーディアムが常駐
している教会もたくさんある26)。牧師には牧師の使命があるし、自分には
自分の使命がある。私たちはハイアーセルフと呼ぶが、キリスト教では聖
霊と呼ぶ。私たちは宇宙意識と呼ぶがキリスト教では創造神という。でも
結局は同じことを言っているだけ」とし、さらに「宗教は駄目という業界
の人もいるけれども、私はEさんのように隣の家を(代わりに)訪問する
26) イギリス人ミーディアムによると、イギリスには霊媒が常駐する教会が多数ある
という(水原 2011:50)。
魂の探訪記(前編)
― ―61
などはできない。それができるのが、キリスト教の愛のように思えました。
宇宙意識に通じる愛の実践です」と肯定的に受け入れていた。
――その後
現在のこの₃者の状態がどうなのかを確認するために、Gに連絡をした
ところ「今年の春にEさんが牧師をやめてしまったので教会との付き合い
は切れてしまった。F以降は₃人くらいの人を紹介してもらった」という
ことだった27)。
一応教会にも連絡を入れてみたが2020年の春に夫婦ともに辞任している
ということで28)必要性を感じなかったため移転先等については確認作業を
行っていない。
4 小括
確かに精神世界に懐疑的・否定的な僧侶もいれば29)、徹底的に否定する
キリスト教の教派も存在する(伊藤 2018a:58-85)。今回の事例からだけ
で、「伝統宗教側がすべて精神世界に親和性を持っている」と言い切るこ
とはできないだろう。
しかしここで着目したいのは、これまであげてきた「精神世界の技
法取得を目指しているが家の宗教は仏教であるという人の事例」(伊藤
2018b:96)や、「キリスト教信仰の補助には精神世界技法が必要だ」と
するサロン事業者の事例(伊藤 2018b:96)」など、宗教の信者が精神世
界関係者になった事例と違い、今回あげた事例は伝統宗教の聖職者・教職
者が積極的に精神世界に関わっているもので「伝統宗教の信者と精神世界
の関係」ではなく「伝統宗教と精神世界の関係」を表しているともいえる。
今回のEやDの勤務している寺の対応は、既存宗教は精神世界に対して
寛容である(伊藤 2019b:101)というだけでなく、伝統宗教と精神世界
が「支え合う4444
関係を含むようになる可能性が潜在的にはある(単語上の強
27) Gへの聞き取りにもとづく(2020年10月₉日)。
28) Eが副牧師をしていた教会への聞き取りにもとづく(2020年10月₉日)。
29) 天台宗阿闍梨(50代男性)への聞き取りにもとづく(2016年11月18日)。
魂の探訪記(前編)
― ―62
調は筆者による)」(島薗 2007:68)と島薗が示した状態が作られつつあ
るといえるのではないだろうか。
(続く)
参考文献
有元裕美子 2011『スピリチュアル市場の研究』(東洋経済新報社)
一柳廣孝 1994『こっくりさんと千里眼』(講談社)
伊藤耕一郎 2018a「精神世界の宗教性について」(関西大学文学研究科 総合人文学専攻
哲学専修 比較宗教学研究 平成29年度修士論文)。
伊藤耕一郎 2018b「精神世界の再考察―宗教との関係から―」『関西大学 哲学 第
36号』(関西大学哲学会)
伊藤耕一郎 2020「精神世界を問い直す」『千里山文学論集 第100号』(関西大学大学院
文学研究科)
瓜谷侑広 1983『深層自己の発見』(たま出版)
大田俊寛 2013『現代オカルトの根源』(ちくま新書)
大谷尚 2019『質的研究の考え方』(名古屋大学出版)
樫尾直樹 2010『スピリチュアリティ革命』(春秋社)
櫻井義秀 2009『霊と金』(新潮社新書)
サトウタツヤ 春日秀朗 神崎真美 編 2019『質的研究マッピング』(新曜社)
島薗進 1996『精神世界のゆくえ』(東京堂出版)
島薗進 2007『スピリチュアリティの興隆』(岩波書店)
日本神霊学研究会編 2019『神霊学用語事典』(展望社)
羽仁礼 2001『超常現象大事典』(成甲書房)
堀江宗正 2011『スピリチュアリティのゆくえ』(岩波書店)
堀江宗正 2019『ポップスピリチュアリティ』(岩波書店)
水原敦子 2011「日本のスピリチュアルリーダー 16」『SaerPeple vol39』(ナチュラル
スピリット)。
吉永進一 2010「近代日本における神智学思想の歴史」『宗教研究84巻(2)』(日本宗教学会)。
レイチェル・ストーム 高橋巌、小杉英子(訳)1993『ニューエイジの歴史と現在』(角
川選書)
★足腰に問題のある方新メルマガいますぐご登録!!★
コメント