【思想のドラマツゥルギー】

林達夫と久野収の対談集として、
『思想のドラマトゥルギー』がある。
これに感銘、影響を受けて、
研究の方向転換をした人がいる。
もっとも、その人物とは、ほとんど話をしたことはない。
林達夫氏については、彼の著作集全六巻のうち、
なぜか、五巻までしか読まなくて、
しかも、それを全部処分したことがある。
ところで、
人は体系構築に向かうタイプと、
深層の底辺の経験をさまよい、その底辺の経験を味わうタイプとの
二つある。
林氏は、どちからというと、
体系構築タイプではなく、
穴埋め作業をしていくタイプである。
だから、平凡社の『哲学事典』などの
地道な編集作業なとが主な仕事となったようである。
つまり、
蛸壺的な狭さに閉じることが専門家になる道であるとすれば、
それを拒否するのが、林達夫氏の場合であった。
それは、経験を味わうことがない場合は、
頭から体系を入れていくことを意味する。
つまり、ドグマの中に入り込むワケである。
いまの受験勉強のように、
頭から一生懸命何かを入れようとする。
それは、ドグマを入れようとする努力に他ならない。
しかし、何かになりきろうとすれば、
何かを切り捨てる他なかろう。
わたしは虫ではありません。・・・
人間です、と。
そう、点取り虫になろうとすると、
何かを切り捨てることを意味する。
しかし、人によれば、
点取り虫になるということは、
点取り虫になることを演技することだ、と。
そういうスタイルが、
『思想のドラマトゥルギー』に現れた方法である。
あるいは、林達夫の方法である。
思想が演技に見えてくると、
思想の取替え可能ということが見えてくる。
だから、林達夫氏の場合は、
思想の演技者かもしれないが、
思想を構築していくタイプではない。
むしろ、思想は、借り物であるとの意識が強烈であった。
そして、そこから、
お茶の間実証主義的な瑣末な細部への
配慮がにじみでてくる。
ダ=ヴィーン!!
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